いのうえ歌舞伎『天號星』@THEATER MILANO-Za

早乙女太一にあてがきさせたら中島かずきが世界一だということは誰も疑うことのない事実ですが、「何かを背負わせたら早乙女太一は日本一」だという中島かずきが今作品で早乙女太一に背負わせたものは「運命」でも「闇」でも「業」でもなく「家族」でした。

古田新太が演じる藤壺屋半兵衛には二人の娘がいて、ひとりは子連れ結婚したお伊勢の娘であり半兵衛にとっては義理の娘になるいぶきで、もうひとりは昔の女である渡り占いの弁天の娘・みさきで半兵衛は自分の娘だと思っているが実は嘘、という設定で、早乙女太一が演じる宵闇銀次はいろんな要素が重なった結果半兵衛と中身が入れ替わってしまうのです。
つまり早乙女太一はいぶきとみさきの父親である古田新太の半兵衛を演じることになるわけで、しかも入れ替わってる時間のほうがはるかに多いんです。

新感線の早乙女太一といえば「イチに闇二に闇、サンシも闇でゴも闇、闇!闇!!闇!!!」じゃないですか。そうじゃない役もあるけど超絶あたり役である髑髏城の七人の無界屋蘭兵衛を筆頭に闇落ちさせてナンボ、闇落ちこそが早乙女太一の真骨頂ですよね。そうなんですよ。わたしはそんな早乙女太一がすきなんです。
でも今回はノー闇落ち。ほぼほぼエガちゃん。
早乙女友貴山本千尋、そして川原正嗣と何度も刀を交わしますが、中身はヘタレの半兵衛なので8割方アワアワオワオワしてるだけ(でも銀次の身体に沁みついた反射神経によってアワアワしながらも避けたり逃げたりできてしまう)。
ぜんぜんカッコよくない。カッコよくないはずなのに、早乙女太一という役者を初めて生で観た「蛮幽鬼」から14年(もうそんなに経つんですね・・・)、14年の間に新感線の舞台に立つ早乙女太一をかれこれ80回は観てきましたが、これまでで最もカッコいい早乙女太一が舞台上のド真ん中にいた。

14年かけて早乙女太一はついにここまでになったんだな。娘を守るために、家族を守るために、溢れるほどの愛を背負って戦う情けなくて優しい男をこれほどまでに真っ直ぐ演じられるようになったんだな。
まったく太一のためにすごい役を作ってくれたもんだよ中島かずき!!この天才め!!。

なにが天才かってさあ!新感線といえばのタイトル演出なんだけどさあ!いつもは幕が上がってひとしきり演じたあと、アバンからのOP的な感じでタイトルが出ることが多いんだけど、今回はタイトルが出るタイミングがすごいのよ。これから大阪があるから詳しくは書きませんが、そこに至る流れは結構なトンチキってか「なに言ってんだオマエw」なのにやってることは超アツくて、タイトルを背負っての圧巻の殺陣、この瞬間の「絵」は新感線作品史上屈指のカッコよさ!!なんなら過去イチと言ってもいい!!!。

1幕終わりもカッコよければラストシーンもまたカッコよくってさあ!ここで早乙女太一にこれほどの切なさを背負わせるとか完全に殺りにきてますよね。こんなんみんな底なし沼に落ちるしかないじゃん。

とはいえわたしがこの作品で一番好きなのは早乙女友貴演じる人斬り朝吉なんですが。
朝吉の顔面にはいくつもの創があるんだけど、それは以前銀次に斬られたからなのね。そんで奥州でヤクザを壊滅させたあと名を上げるべく江戸にやってきた銀次を追ってきたという設定で、銀次ともう一度斬り合いたい、斬り殺したいという思いしかないバーサーカーなんだけど、でもですね・・・バカなんだよねw。
中身は銀次だけど外見は半兵衛(つまり古田新太)に「今の俺の身体はぶよぶよの中年男だけど、そんな俺を斬って満足するのか?」と「だったら銀次の外見をした中身半兵衛をオマエの手で鍛え上げたところで斬ればいいよ」と言われて「なるほど!」となるようなバカでw、そういう意味では半兵衛と銀次に最も振り回されるのが朝吉なんだよね。
まごうことなき狂戦士でありながらアホ可愛いのはゆっくんゆえのことだろう。

そんな早乙女兄弟と、古田新太の二人の娘を演じる久保史緒里さんと山本千尋さんを劇団員さんたちが安定安心の役どころでもって支え、池田成志が好き勝手に暴れ、古田新太が締めるコンパクトながらバランスの良い座組でした。劇場(の動線と椅子のクソさはそれとして)のサイズを活かすいのうえさんの鬼演出も楽しかった。
あーもっと観たかったよー!(戻れるならばチケット発売前に戻りたい・・・)(「私君」「彼君」ぬいぐるみってなんだよクソクソッ ←この作品とも新感線ともまったくの無関係ですが、どこかで愚痴りたかったんです・・・)。