- 作者: 香納諒一
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 単行本
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比べることではありませんが、内容、質、共につい最近刊行された「贄の夜会」の方が断然上です。まず主人公の描きこみが少なすぎると思う。幸せとは言えない少年時代を送ってきた主人公が、警察官になり、未成年者に銃を突きつけたという嫌疑をかけられ辞職に追い込まれるが、それは冤罪で、今でも地元住民が署名運動を行ってくれている。こんな背景を持つ主人公なのに、ここらへんのことが説明というか上っ面だけしか描かれていないので、主人公の人となりみたいなものが全く伝わってこない。自らも少年時代に辛い経験をしているわりには子供達に心を沿わせるわけでもないし、調査の過程で人に話を聞く際の口調なんかに温かみは感じられなくて、署名運動をしてもらえるほどいい警察官だったとも思えない。そのくせ過去に好きだった女教師と再会してウダウダ悩むのはたっぷり描かれてて、それが主人公の心情や成長になんらかの影響を与えてるんだったらまだしも、そういうわけでもないし、おまけにこの女教師(元ですが)もまた上っ面だけの描写なもんで、この二人の絡みに全く魅力がないのです。学校に放置された女子高生の全裸死体、用地買収に伴う権力闘争、大量殺人を目撃した子供達、と面白くなりそうな要素は沢山あるのに、どれもぐぐっと引き込まれるようなものではなくて、すごくもどかしかった。
以下ネタバレあります。
殺された女子高生の日記(親が覗き見してた。現物は結局見つからず。つまり日記の内容は親からの伝聞でしかない。この詰めの甘さもすこぶる不満)にあったS.Yというイニシャルがちょっとしたポイントになっているのですが、関係者に思いっきりそのイニシャルを持つ人物がいるってのに、誰一人それに気付かないってのが不自然すぎ。普通イニシャルって名前・苗字 で表さないか?(例 TK=てつや こむろ とかさ、MCAT=あきお とがし とか。って例えが思いっきり微妙ですけど)それに、女子生徒の爪の間に加害者の皮膚なんかがなかったりと抵抗した痕跡が全くないのに、警察も含めてそのことについて誰も考えたりしないのも謎。それから、いわゆるラスボスである少年とやりあった時に、主人公がどんなに痛めつけようとも最後まで倒れることなく根性で「殺してやる・・・殺してやる・・・」と殺意を抱き続けたという理由で少年の更正を信じてみようと思える主人公が謎すぎる。あんた絶対仕返しされるって!!と思わず本に向かって突っ込みいれました。主人公的にはずっと引きずっていた女教師との思い出に決着をつけ、学園での出来事を糧に一歩前進ということなのでしょうが、ラスボス少年や一人生き残った少女の未来については書きっ放しというか、甘く見すぎな気がして、とても不満。