新井 政彦『ユグノーの呪い』

ユグノーの呪い

ユグノーの呪い

2007年に、カウンセリングや薬物療法では治療することができない重度の精神疾患患者の治療法、患者の精神世界をデジタル化して取り出し、病因を直接探り出すという「ヴァーチャル記憶療法」が確立され、同時に自らをヴァーチャル化し、患者の精神世界へ入り込むヴァーチャル記憶療法士という職業が新たに生まれた。物語は2018年。過去、治療中に「ミッシング」(精神世界で行方不明になり、現実とのリンクが一時的に絶たれる)を経験し、その結果、現在では荒んだ生活を送っている療法士の主人公は、元同僚に誘われ、メディチ家の末裔であるルチアという14歳の少女の治療を引き受けることになった。突然目が見えなくなり口が利けなくなった少女の精神世界では、16世紀のパリ、サン・バルテルミーの虐殺にまつわる血にまみれた世界が広がっていた。果たしてこれは、ユグノーの呪いなのか。

非常に面白かったです。サイバーゴシックアクション小説ってな感じ。設定はそれほど新しいとは思わないけど、16世紀のパリやメディチ家の末裔ってのが物語に微妙な重厚感を与えてると思った。なんつって、無知なもんでそこらへんの歴史に関しては薄らぼんやりとした印象しかないわけですが・・・。
患者の脳内に入って、直接の原因=トラウマを排除なんし説得して治癒させるというめちゃくちゃ乱暴かつ原始的なトンデモ療法がまかりとおる世界(都合が悪くなったら現代に一瞬で戻れるし、ヘリでもマシンガンでもデータ化して持ち込むことが可能)だ、ということをすんなり受け入れられれば、ゲーム感覚で一気読みです。それまで雰囲気ある物語を作り上げてきたのに、思いっきり現実味というかリアリティ溢れる結末にしちゃってるところも好みでした。満足です。翻訳モノみたいな装丁に躊躇する人もいそうだけど、主人公は日本人だしすんなり読めますよ。