越谷オサム『ボーナス・トラック』

ボーナス・トラック

ボーナス・トラック

第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。
ハンバーガーショップで下っ端社員として働く草野さんは、ある雨の晩、ひき逃げ事件を目撃してしまう。気がつくと草野さんは、その事件で死んだ若者、横井亮太の霊が見えるようになっていた。お調子者の幽霊と奇妙な同居生活を送りつつ、勢いで共にひき逃げ犯探しをすることに。


死んでしまった人間と生きている人間が心通わす物語なんて、結局は「ありがとう、さよなら」なんつって、光に包まれて幸せそうな顔して消えていくってな感動シーンで終わるわけで、泣きたい人だけ読めばいいんじゃないの?と常々思っておりまして、この本もそんな幽霊本カテゴリーにバッチリ含まれると思うんだけど、なぜか手にとってしまったのです。何で読もうと思ったのか自分のことなのに全然分からない。そんなわけで期待ゼロで読み始めたわけですが、ごめんなさい、感動しちゃいました。お恥ずかしながら、ちょっと泣いちゃいました。アリ、これ全然アリです。
話そのものはありがちな幽霊話で、びっくりするようなことは全くないんだけど、亮太と草野さんの会話や地の文がすごい自然で、ここまで普通に会話してる感覚で読めたのって初めてかもしれないってぐらいでちょっと興奮。おかげで感情移入しまくりですよ。感覚的なもんだから、わざとらしすぎるって思う人もいるだろうけど、私にはドンピシャ(古い)でバッチグー(古い)でした。
余計な登場人物も出さず、デビュー作にありがちな頑張ってる感もない。そしてラストがほろ苦くて切なくて美しい。今後どういうタイプの作品を出していくのか分かりませんが、ポテンシャルはかなり高いとみた。
俄然追いかけます、越谷オサム。名前はどーかと思うけど、今後にめちゃめちゃ期待します。