夕木 春央『十戒』

いい意味で「方舟」と同じような作品でした。
タイトルの「十戒」は作中で早々にそれらしき描写があるんだけど、真相が明らかになったあと先にもう一つの意味があることだとか、物語における“犯人”のポジショニングだとか、読後感だとか、そういうものが繰り返すけど『いい意味で』「方舟」と似ていて、2作続けてこのクオリティは素晴らしい。

まあ、この犯人がこれだけの殺人とその後の処理をひとりで行うことができるだろうか?というところはあるし、置かれている状況が状況なので異常心理状態であったとしても、死体を目にした反応がどいつもこいつも冷静すぎるとは思うし、そもそもの話被害者たちはなぜ〇〇なんてものを作ってたんだ?という疑問は残るけど、引っかかりはすれどもそれが物語の足を引っ張ることにはならないのはロジックがしっかりしてるからだろう。

偉そうな物言いをするけどもうこれでこの人は「書ける人」だという認識になったし、「こういう作風」だということもインプットしたんで次作への期待値がぐんと高まるわけですが、どういう方向性になるにせよひらりとそのハードルを跳びこえてしまいそうな勢いを感じる。