薬丸 岳『罪の境界』

渋谷のスクランブル交差点で発生した無差別死傷事件の被害者が、自分を庇って命を落とした人の「最期の言葉」を伝えるため、その人の人生を辿ろうとする。
一方加害者の生い立ちに自身のそれを重ねるライターが、事件のノンフィクションを書くべく犯人の人生を調べようとする。

このところの薬丸さんは「罪と罰」「贖罪」をテーマとする作品が続いてて、この作品もそれらに連なる内容なのだろうなと覚悟しながら手に取りましたが、これは罪と向き合うというより(その要素ももちろんありはするけど)被害者と加害者それぞれの「望み」を叶えるまでの道のりが描かれ、そのなかで「罪の境界」を越えるか越えないかという物語であり、その先には希望と絶望があるという、最後は綺麗にまとめすぎだとは思うものの(加害者の母親の話とか。息子に会うべく正社員になったのに、なぜまた街娼をしてたのかもわからんし)読後感としてはここ数年の薬丸作品のなかで最も穏やかです。