国選弁護人として初めて殺人事件の被告の弁護を担当することになったまだ若い弁護士が主人公で、事件自体は30代の女性が通っていたホストクラブのホストを殴殺したという単純なものなのですが、被告の女性が警察官なので警察=検察VS弁護士という図式であり、警察内部の思惑とか隠蔽とかそういった方向の話になるのかと思いきや、「事件の真相」に向かい真っ直ぐ突き進むシンプルな物語でした。
既婚者の警察官(刑事)がホストの部屋を訪ねて性的暴行を受けそうになったため手近な酒瓶で殴ったらホストが死んだ、というWS的な下世話要素はあるものの、繰り返すけど事件は至って単純なものなのですが、そこには様々な関係者がいて、様々な事情があって、それぞれの感情がある。
それらを弁護活動のなかで丁寧にひとつひとつ拾っていくことで新たな苦しみを生むことになっても、それでも真実を明らかにしなければならないし、そうすることが罪を犯した者にとっても、遺族にとっても、大事なことである、というここ最近の薬丸さんが作品に込める(と私は思っている)メッセージがシンプルな物語だからこそより強く伝わってくる。
主人公も一緒に弁護活動を行う同僚弁護士も大切な人を犯罪によって奪われたという過去持ちで、それはそれぞれが弁護士になった理由に直結しているので必要な設定だとは思うのですが、「またか」という思いは正直あります。でもこの作品ではどちらの「過去」も解決はしない。自分はどうするべきかどうあるべきかを自分自身に問いながら、その過去を自らの核としてこれからも罪と罰に向き合う、という終わり方は、薬丸さんにとってひとつの到達点なのかな。