薬丸 岳『告解』

告解

告解

  • 作者:薬丸 岳
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: 単行本


飲酒運転中に人を轢き、そうと気づいていながら逃げて4年の実刑判決を受けた二十歳の男が刑期を終え、何もかも失ったことを痛感しつつ日々を生きる物語と、インフルエンザで寝込む自分のために深夜コンビニへ氷を買いに行った妻を轢き逃げで殺された八十代の男の物語、つまり交通事故の加害者と被害者のその後を並行して描く物語なのですが、被害者遺族である法輪二三夫は、加害者である籬翔太について興信所を使い動向を調べながら「やらねばならないこと」があると言い、家族に黙って出所後に一人暮らしを始めた翔太と同じアパートに引っ越すのです。となれば目的は復讐かと思うところですが、加害者と被害者が「贖罪」によって結びつくところがこの作品です。

「天使のナイフ」や「Aではない君と」で描かれた少年犯罪のように“特殊”な事情とは違い、交通事故という誰もが加害者に、被害者に、加害者家族に、被害者遺族になる可能性がある話なので、そういう意味でのリアリティはあるし、考えさせられるところもありましたが、その2冊や「友罪」ほど、物語としての重さは感じなかった。
大切な人を失うことが罰だという二三夫と翔太の共通点。それはまさに「贖罪の在り方に向き合い続けてきたからこそ辿り着いた」(帯文より)ものだと思うし、どこか優しさすら感じてしまったわけですが、あえてこの言葉を使いますが良くも悪くも物語としてのこの温さであり柔さ、それはやっぱり交通事故という要素が大きいのかな。実体験と重なってしまうひとが少なからずいるだろうしね。