本多 孝好『アフター・サイレンス』

警察から依頼を受け事件被害者やその家族のカウンセリングを行う臨床心理士が主人公で、大切な人を失い残された者たちが抱える想いに手を伸ばし掬いあげようとする連作短編集です。

クライエントとカウンセラーの会話が主なのでそもそも“動き”は少な目だし、様々な理由・事情を抱えるクライエントたちは総じて静かで、また頑なで、何かを内に秘めている人たちなので全体の雰囲気としては淡々と進むのですが、そこには激しい感情があって、主人公が時にはカウンセラーとしての職分から逸脱しても寄り添おうとすることで心の奥に燃える青い炎のような激情が顔を出すのです。

どの話もクライエントの「真意」がそうとハッキリ描かれるわけではなく余韻と余白を残して終わるのですが、そこには主人公が抱える過去、父親との関係が影響しているところがあって、クライエントたちの求めているもの、探しているもの、欲しかったものが見つかった・わかった先に主人公自身の物語がある。主人公自身が自らの問題と向き合うことになり、そして今その時点での自分の中から湧き出てきた「言葉」を相手に伝えるという形で物語は閉じる。この流れがとても綺麗。

本多さんの仕事上で知り合った、関わりを持った人々に寄り添いながら主人公当人が助けられたり救われたりする物語は苦しいけど優しい。