本多 孝好『dele ディーリー』

dele ディーリー

dele ディーリー

依頼人の死後不要となるデジタルデータを削除する仕事をしている二人の男を中心に、この世から抹消して欲しい「記録」を持つ依頼人の想い、残された者たちが抱える「記憶」という想い、過去も未来もひっくるめてそれらを描いた物語です。
どんな事情・理由があれ依頼人から受けた「依頼」を確実に遂行することを掲げる社長のケイと、そこにある“想い”をなんとかして届けたり叶えたりしたいと思ってしまう祐太郎が意見の相違はありつつもなんだかんだで依頼人やその関係者の事情に巻き込まれてしまう・・・というありがちパターンではありますが、この仕事に救われているのは祐太郎であり、たぶんケイも、なのではないかというところが実に本多さんらしい。
祐太郎にもケイにも過去がある。抱え続けてる(であろう)想いがある。祐太郎の事情は物語が進むにつれだんだんとわかってくるんだけど、ケイのそれは曖昧なまま。だから二人の言動の背景になにかがあることは確実なのに、それがなにかは見えてこない。でも感じられる。感じとれる。
そしてそれがようやく最後の最後に形を生す。記録という形あるものをこの世から消し去る仕事をするために出会った二人が、記録という形あるものを守るために、その記録の中身であり持ち主のことを記憶として持ち続けることを約束する。それ以上のことは語られずただそれだけなんだけど、それだけで充分。「なのではないか」だからこそ充たされる。
まぁ、死後にこの世から抹消したいものがあるとして、この物語は全てそうしたいと願う理由=誰かの存在があるからでしたが実際は特定の誰かではなく「誰にも」見られたくないものを抱えていることがあるわけで、誰も見ない(誰も気にしない)かもしれないけどそれでも完全に消し去りたいことがあったりするわけで、それが現実なんだけど・・・。