知念実希人『ムゲンのi』

ムゲンのi(上)

ムゲンのi(上)

ムゲンのi(下)

ムゲンのi(下)


突然眠ったまま目を覚まさなくなる「イレス」という病の患者が同時発生し、その主治医が主人公で、主人公の祖母は沖縄出身のユタと呼ばれる巫女で、主人公もその能力を使えるようになり眠る患者の深層意識にある「マブイ」を戻す「マブイグミ」で患者を目覚めさせていく。というのが序盤でして、患者の抱えているものに触れそれを解消してやることで魂を救うなかで、主人公もまた自身が抱えるトラウマと向き合い乗り越える・・・的な話なのだろうと予想ができて、話題作(にしようとしてる空気を感じる)っぽいから読んでみようと手に取ったものの、猫とウサギを合体させたような見た目の自分自身を映す鏡のような存在である「ククル」と共に患者の心のなかを冒険するという世界観はあんまり好みじゃないかなーと、上巻の三分の二あたりまでは思っていたわけですが、謎の奇病が同時発症した理由の背後に「ある男」の存在があり、それが同時期に起きている残虐な連続殺人事件に繋がっているらしいと、さらに主人公のトラウマの原因である過去の事件にもどうやら関わりがあるらしいいうことが明らかになったあたりからは一気読み。終わってみればサイコパスとファンタジーの融合という、不思議な物語でした。

「ある男」の正体になかなかたどり着けない状況に対する(心理的)理由付けとして用意された要素であっても、こういう結末になるのであれば連続殺人という要素が浮いているというか、そこまで残虐なものにする必要が果たしてあっただろうか?という思いは残りますが(主人公は許しても、ミンチにされた被害者たちを「愛する人」がいるだろうに、その人たちの気持ちはどうなるのかと)、そんな要素がありながらもハートフルな読後感という、そういう意味でも不思議な物語。