小倉 日向『極刑』

極刑

極刑

  • 作者:小倉 日向
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

10歳の娘の命を性犯罪で奪われ、妻と離婚して小さな居酒屋を営む40代の男が悪人たちを仕置きしていく物語です。
仕置き対象を見つけるルートが2つあって、ひとつは犯罪被害者の会で被害者遺族や会に関わる人間たちから聞いた話という真っ当なものなのですが、もうひとつが特殊でして、それは刑務所で服役している自分の娘を殺した犯人から聞く、というものなのです。

この主人公は、犯人が極刑にされたら自分の娘が生きた証がなくなってしまう、犯人が更生することで再び娘と同じような犠牲者を出すことがなくなるならば、娘はそのために死んだのだと思えるという考え方をする人間で、だから自分と継続的に面会することを条件に犯人側の証人となり、それが理由で妻と別れたという設定なのですが、そこまではまあ考え方は人それぞれってことで(設定として)いいんだけど、更生を求める相手から仕入れた悪人の情報を元に冷酷な私刑を行うって意味がわからないじゃないですか。
悪人の犠牲となった被害者自身やその関係者が「私刑」を望んだ、ということでもなく、ただ主人公が自分の意思でもって悪人に報いを与える。自分の娘を殺した人間には更生を望む一方で他人絡みの犯人には罪の重さに見合った罰を与えるって、主人公のメンタルどうなってんの?と思うじゃないですか。

三分の二を過ぎたあたりで主人公自身もそう葛藤するんですよね。自分がしていることは自分とは直接関係のない人間を罰することで復讐心を充たしているのではないか、と悩むので、それに対する「答え」を出すことが物語の終着点になるのだろうと思ったら、政治家や有名人が顧客の児童ポルノ・児童買春を実名顔出しで暴き、その運営者が殺された罪を着せられたところで実は警察が実行犯である証拠映像を公開するという、どんだけ凄腕の仕置き人やねん!!(笑)ってところでこれからは山奥で娘の思い出と共に生きていきます・・・というなんだそりゃエンドでズコー。

これが初めての作品ではないようですが“新人”という触れ込みで、私もはじめて読む作家さんですが、なぜこのなんのオチもついていない、何が書きたいのかわからない作品の出版にゴーが出たのか謎すぎる。店の常連との関係性を含め主人公のキャラクターは悪くないし、罪と罰の釣り合いを考えた仕置きも複数パターンがあって面白くはありますが、犯人がはぐれ死してしまった主人公自身の話がどうにもならずに終わるってのはそこにどんな意図があるのかまったくわからん。