櫛木 理宇『虜囚の犬』

虜囚の犬

虜囚の犬

職務上のトラウマで家裁調査官を辞め現在は妹と同居し専業主夫として生きている白石は、県警捜査一課の刑事である高校からの付き合いである友人からかつて担当した少年が殺されたことを聞かされる。だが現在は成人となっている元少年はただの被害者ではなかった。元少年・薩摩治郎が引きこもり生活を送っていた自宅の離れでは、裸で鎖に繋がれた女性が監禁されており、さらに敷地内から別の女性の死体も発見されたのだ。強引な友人に引きずりこまれる形で、白石は渋々事件に関わることに。

裕福ではあるものの父親が暴君という家庭環境で育てられた元少年が複数の女性を監禁・殺害していた理由を警察ではない視点で追いつつ、その中で主人公も自身のトラウマと向き合うことになる的な物語のつもりで読んでいたら、突如男子高校生の視点が加わり、そこで時系列の仕掛けがあるんだなという予想ができるのですが、釣り針はあちこちに垂らされてはいるものの、それらが「釣り針」であることは明らかなのに読者視点としてでもなかなか仕掛けの姿が見えず、それじゃあこの視点は何なんだ?と思いかけたあたりでようやっと解ったことが「8年経ってました」ってだけでズコー。この視点は主人公のトラウマとは関係なかったんかーい!。

帯に「どんでん返し」とあるように、事件の首謀者はわりと“意外な人物”ではあったし、その動機も結構“まさか”なヤツではありましたが、作中で8年が経過してるのは注意して読んでいれば解ったかもしれないけど主人公がもう一度イチから勉強して資格を取ってコンサルタントとして社会復帰してることは唐突すぎて、真相解明ターンで完全に置いてけぼりにされてました。真相にたどり着く鍵となったのが「馬鹿」と「糞」の呼び分けってのはちょっと面白かったけど。