直島 翔『警察医の戒律』


NYの検視局で法医学者としてのキャリアを積み、生まれ育った横浜に戻り警察医になった男が主人公で、多様化する性を取り巻く問題に対応すべく神奈川県警に新設された女性警部率いる「ジェンダー班」とともに「遺体」に残された事件の鍵を見つけ真相を解明する・・・という作品で、はじめましての作家さんです。

「NYの検視局帰り」と聞くとパトリシア・コーンウェルの検視官シリーズを思い出すもんで、日本のお粗末な検死状況を嘆きつつも培ったスキルで遺体から事件を解き明かす「証拠」を見つける的な、そんな物語を想像しながら読み始めたわけですが、特に「NY帰り」の凄腕感はなかったです。
それどころか遺体と「会話」してて、あれあれこのひと大丈夫・・・?と思ったら、ぜんぜん大丈夫じゃなかった。めちゃめちゃメンタルやられてた。

検死によって解った事実、見つけた証拠から事件の真相にたどり着き犯人を逮捕することが主題ではなく、死の真相が明らかになるとともに被害者の事情や想いが浮かび上がり、それにより救われる人を描く人情話であり、そのなかで主人公の事情がだんだんと見えてきて、最終的に「傍からみたらヤバイ人だけどそれでいいのだ」ってところに落ち着いたんだけど、タイトルである「戒律=コード」はまだぜんぜん歯抜けであることだしシリーズ化するつもりでしょうが、「死者と対話ができる」設定はいいとして「NY帰り」のほうをもうちょい活かしてほしいところ。