吉田 修一『太陽は動かない』

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

太陽は動かない (幻冬舎文庫)


吉田さんの作品を好んで読むようになったのが割と最近なのですが、でもこの作品は「悪人」よりも後に刊行されたもので、であればなぜ私がスルーどころか「鷹野一彦シリーズ」なるものの存在を知らずに生きてきたのかわからない。
と思いつつ、今回この作品を手に取ったのはドラマと映画を連動して映像化されると知ったからです。基本映像化(実写化)にはどちらかと言えば後ろ向きな私ですが、主人公を演じるのが藤原竜也となれば見ないという選択肢はなく、そして勤勉なオタクを自認する私はそれが小説作品であれば原作を読む!読まずに批判は許されない!をモットーとしているので。

で、読みました。
内容のまえにまずこれを言わせて。鷹野一彦に藤原竜也のイメージ皆無。海老だか蟹だか肉だかを手づかみで食べる場面で「太い指」という表現がされていて、藤原竜也に「太い」ところなんてありませんけどー!。
まあね、実写化なんてそんなものよね。竹内涼真の乱交はわりと想像できるけど。

作品はすこぶる面白かったです。「AN通信」というアジアの情報を発信する小さな通信社に所属している主人公を筆頭に、この世で最も価値のあるものは情報であり、情報とは宝であるってなわけで“宝探し”をする産業スパイたちの駆け引きを描いた作品なのですが、まずスケールの大きさに圧倒される。中国と日本(とアメリカ)という国を動かすと言っても過言ではない話なのに、それでいて暗躍する個(人)の話として読める。
大義だとかそんなものではなく、あくまでもそれぞれのビジネスの話として読んでいたものが、少しずつ繋がっていき、やがてそれぞれの狙いが一つの巨大国家プロジェクトとなって現れる。この流れがカッコイイのなんのって。

ベースとしては情報戦ですがかなりハードなアクションシーンもあって、あっちでもこっちでも瀕死状態になったりしますが、主人公たちAN通信の諜報員たちはそれぞれ胸に小型爆弾を埋め込まれていて、一定時間連絡が取れない場合は秘密保持のために爆弾が爆破する、つまり死ぬというなかなかの超設定があるんですよね。だもんで単なる瀕死ではなく、この設定によりこのまま連絡が出来なければ今は生きながらえていても結局死ぬという問答無用のハラハラ感が生まれるとともに鷹野と田岡との関係性がぐっと濃くなり、そして終盤で鷹野(や田岡)の過去であり、生きる理由が明らかになるんだけど、これを悪人というか曲者というか、そういう人間たちによる裏切り斬り捨て当たり前の話のなかで「いい奴代表」の政治家を通して明かされるってところがたまらなくイイ。体液出しまくりだけど乾いた物語のなかでこの場面のウェット感が非常に効いてる。政治家なので立場的に普通とは言い難いものの、下ネタ大好きで友情に篤い男というわかりやすく共感できる人間が一人でもいると読みやすさがグッと増すし。

続編が2作あるようなので、読み進めるのが楽しみ!。ドラマと映画についてはそれはそれ。