貫井 徳郎『罪と祈り』

罪と祈り

罪と祈り

地域の人たちから「お巡りさん」と呼ばれ信頼されていた元警察官が殺される。息子の亮輔は自分が父・辰司のことを何も知らなかったことに気づき、その死を受け入れるためにも父について調べることにする。一方、亮輔の親友であり辰司を父のように慕い警察官になった賢剛は辰司の捜査に加わることとなり、刑事として辰司の死に向き合うが、捜査の過程で二十年以上前に自殺した父親と辰司の「過去」が辰司の死に繋がっているのではないかという疑いを抱き・・・という物語で、亮輔と賢剛による「現在」と二人の父親である辰司と智士による「過去」が平行して描かれるスタイルです。

物語を構成する要素はかなり早い段階であらかた提示されるので、父親の死の背景に何があったのか?という「謎」については予想できるし、そういう意味でのミステリー感はありませんでした。過去が明らかになっていく過程もひとつひとつ段階を踏んでるし、それが現在の事件に繋がってしまった理由もちゃんと前振りであり伏線があるのでどんでん返し的な驚きもなかったし。
でも登場人物たちの気持ちが理解できるようでできない。過去においても現在においても、わかるようでわからない。そういう「謎」があって、その「謎」は読み終えても残り続ける。
なぜあのときそんな判断・決断をしてしまったのか。してしまうのか。父親たちのそれも、父親のことを知った息子たちのそれも、「時代」という言葉だけではあまりにも重すぎて、私には理解も共感もできるとは言えない。