- 作者: 降田天
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2019/04/26
- メディア: 単行本
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第71回「日本推理作家協会賞 短編部門受賞作」です。
『落としの狩野』と呼ばれた元刑事がいて、タイトルにある通り今は交番勤務のその男が「犯人」たちが隠そうとしているものを暴き出す・・・というとちょっとニュアンスが違うかなあ?時に引き出し時にさらけ出させる短編集です。
タイトル作は2篇目に配置されているのですが、この段階でもう狩野が「容疑者を死なせた過去を持ち、交番に飛ばされた」ことは“そういう設定”として定着しているんですよね。で、狩野は主人公というか探偵役というか、そういうポジションではあるものの、狩野自身の「心の声」はないのです。自身の過去を狩野がどう思っているのか、そういったことは一切描かれません。狩野はただ犯人と会話をし、罪を認めさせるだけなので、「そういう作品」なんだと理解するわけです。
非常に質が高い「推理小説」で、それこそ長岡弘樹さんの「傍聞き」に匹敵するキレもあり、それだけでもう満足してしまい、主人公の“設定”とかどうでもよくなってるところで「見知らぬ親友」からの「サロメの遺言」という後半の2篇によって『狩野の過去』が描かれる。とはいえ「狩野の話」ではありません。それまでの3篇と同様にあくまでも「犯人の視点で描かれる犯罪を狩野が明るみに出す話」として描かれているなかで、狩野が容疑者を死なせた経緯が浮かび上がってくるのです。この構成が見事すぎる。
5篇それぞれ単体の作品としても面白く、様々な犯人像であり事件の質もいろいろでありながらどこか共通する空気感があって、それを一言で表現すると『品』だと私は思うのですが、先に読んだ受賞後1作目の長編でも感じた端正で美しい流れというものがこの短編集にもしっかりあって、この作家コンビ好きだ!と確信しました。
狩野以下レギュラーになりそうな登場人物たちもこれみよがしな“設定”などなくても十分にキャラ立ちしてるし、シリーズ化されるであろうこれからが楽しみ!。