横山 秀夫『ノースライト』

ノースライト

ノースライト

一級建築士が主人公で、施主から「あなたの住みたい家を作って欲しい」と依頼を受け自分の私情を思いっきり乗せて「代表作」と誇れる家を建てたところが、本に載ったその家を気に入った別の施主から見学に行ったが誰も住んでなかったようだと教えられる。自ら「Y邸」のある信濃追分に向かった主人公が目にしたものは、電話機1台を残し荒らされた室内と「タウトの椅子」だけであった。完成した家を見てあれほど喜んでいたはずの家族はどこへ行ってしまったのか。

「Y邸」に住むはずだった、住んでいるはずの「吉野一家」の行方捜しを軸として、主人公の別れた妻子との話、建築士としての(人間関係を含めた)仕事の話、そしてドイツ人建築家ブルーノ・タウトの軌跡を辿る物語なのですが、そこには陰謀も派閥闘争もないし、「事件」もありません。云ってしまえばただ「主人公が一時“施主と建築士”という関係を結んだ男の行方を(自己満足のために)捜す話」でしかない。さらに言うと主人公をはじめ登場人物たちに特別魅力があるわけでもない。だから「面白い」という感じではないのです。私にとってはこの作品の中に何一つ興味を惹かれる要素がなかった。
だけど一気読み。
「Y邸から消えた一家」の真相、コンペの行方、後半からラストにかけての熱量の上げ方が素晴らしく、読み終わった瞬間「上質な物語を読んだ」充実感でいっぱいになりました。