一本木 透『だから殺せなかった』

だから殺せなかった

だから殺せなかった

第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作です。

「屍人荘の殺人」と大賞を争ったそうで、それは・・・運がなかったと言うか、応募するタイミングが違っていれば大賞を受賞することができただろうと思うぐらい力の入った作品でした。

一見何の繋がりもなさそうな殺人事件が関東各地で起きて、全国紙の記者あてにそれらの殺人は自分が行ったことだと書かれた手紙が届き、「ワクチン」と名乗る犯人は新聞紙上で記者と公開討論を要求する・・・という劇場型犯罪モノですが、良くも悪くも抑制が効いているというか、まあ・・・それこそ屍人荘~と比べてしまうと地味だなという印象はあります。

劇場型というだけあってこの手の作品は映像が浮かぶというか、映像化したら映えそうだなと思うことが多いのですが、この作品においてそういう箇所はただ一つ、新聞社の地下で回る巨大輪転機のくだりだけで、この場面はその前で交わされる会話とともに強く印象に残るのですが、それが結末にも、物語全体においてもそこまでの意味というか効果というか、そういうものを齎さなかったことが残念。