川瀬 七緒『紅のアンデット 法医昆虫学捜査官』

紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官

紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官

もはや安定のシリーズですが、今回はずいぶんと感じが違うな!。
古い日本家屋が事件現場で、そこらじゅうに血しぶきが飛ぶ凄惨な部屋の中に残されていたのは三人の切断された指のみ。指の状態に違和感を覚える赤堀だがその理由がなかなか見つからず、捜査にも進展が見られない。という話で、赤堀をもってしてもなかなか虫の声を聞くことができず、虫を追って(探して)ガンガン突き進んでいくといういつもの感じとは違います。
その理由は赤堀が法医昆虫学者とプロファイラーと科捜研の技術開発部門をひとつにまとめた「捜査分析支援センター」なる組織に属することになったから。非正規職員とはいえこれまでの成果が認められ組織の一員になれたものの、そのせいでなにをするにも許可が必要となりこれまでのように自由に動き回ることができなくなったという背景があるのですが、でもそれだけじゃないのです。被害者と目される人物について捜査を進めるなかでかつてアルコール依存症であったことが明らかになるのですが、これが赤堀の過去であり本性・本質を描く引鉄になるのです。この事実がシリーズ愛読者としては結構な衝撃でして、そしてそれはシリーズの縦軸になるであろうわけで、この作品でシリーズに対する印象がガラっと変わってしまった感があるのです。
でも赤堀がそれを明かしたのは岩楯に対して。つまり読者に対してのみではないのです。赤堀の過去を知るのは読者だけであり作中の人物たちは誰も知らないということだったならば不安しかないけど、岩楯がそれを知っている。加えて今作から赤堀には「仲間」ができた。だからこの先を楽しみにできる。むしろこれまで以上に楽しみですらある。