川瀬 七緒『フォークロアの鍵』

フォークロアの鍵

フォークロアの鍵

民俗学を学ぶ主人公が認知症患者が持ち続ける「記憶」について研究するため民間の介護施設に通う。そこである女性患者の口から出た「おろんくち」という言葉について調査をするがなかなか情報が集まらない。一方、両親、特に母親との関係に問題を抱え不登校中の男子高校生は祖父母が住む山梨についての掲示板で「おろんくち」という言葉についての質問を目にする。それはかつて祖母が語ってくれた物語の中に出てくる言葉だった。掲示板を通じて知り合った二人は老人たちの助けを得て「おろんくち」についての調査を進めるが、やがてそれは思わぬ事件と結びつき・・・という話なのですが、とにかく見事であった。
川瀬さんと言えば変人法医昆虫学捜査官シリーズですが、その「法医昆虫学」にあたるものが今作は「民俗学(口頭伝承)」で、それに認知症や所謂毒親といった社会的問題を絡めつつ、老人と少年の変化であり成長を描き、さらにミステリー要素もあるとテンコ盛りなんだけど、とにかく構成と展開が素晴らしい。あらゆる要素がバランスよく配置され、それらが一気にではなくひとつひとつ結びついていき、それにより一段ずつ階段を登って行った先にまさかのクライマックスが待っていた・・・ってな感じで、伏線もバッチリ決まってるしこれはもう文句ナシの傑作です。
法医昆虫学のほうもそうなんだけど、独特な雰囲気、語り口の主人公に「物語」を持たせず、あくまでも主人公は研究者として謎の解明に突き進むだけで、それに付き合う周囲の人間が主人公の行動・言動に触発され刺激を受け、云わば勝手に成長するってのが良いんだよなぁ。今回で言えば男子高校生・大地もそうなんだけど、それより介護施設の職員たちがとても良かった。面白かったー!。