『カルテット』第8話

終わった話をむしかえしますが、所謂時間軸問題について。そういう考察があって結構なひとたちが「そういうことか!」と半ばそれを正解として受け止めているようだってな感じのことはなんとなく目にしてましたが、わたしにはまったくそんなふうに作られているようには見えず、この作品に時間軸を違えてまで描くようなテーマがあるようには思えない(そういう作品だとは思えない)し、まだわたしには見えていないだけでそういうものがあるんだとしても、時間軸という構成・作劇上の“仕掛け”をするならばもっと上手くやるだろうと、そうとしか思わなかったんで、そういう見かたをしてる人たちもいるんだなー程度でこの・・・現象?自体がわたしの見てるカルテットに影響を及ぼすことはなかったのに、公式(プロデューサーさんだっけ?)が正式にそういうことはないとコメントを出したことでなんか・・・しらけちゃったんだよな。考察するのは自由だし、それも含めてドラマを楽しむってことだけど、それが暴走しすぎて本来見えるべきものを阻害してしまいかねないからと作り手という神の視点からそれを否定したってことだとわたしは理解したけど、この一連の流れぜんぶひっくるめてなんだか不粋だなと思えてしまって、無様だなと思えてしまって、このドラマを楽しむ気持ちに水を差された気分になりました。
(あとまぁこれはこのドラマとは全く関係のないことなのだけど、わたしが好きな役者さんがSNSが発達することにより演じ手・作り手の意図するところとは違う解釈・受け取り方が広まってしまう(そしてそれを役者個人のレベルでは否定や訂正することができない)ことに対する不安というか危機感を抱いているというようなことを仰ってて、ああ、こういうことかーとも思った)
そんなわけで、結構なモヤモヤを抱えながら8話を見ました。
画面の中はいつものカルテットで、巻夫婦編はなんだったのかと思うほどいつもの4人で、前半あれだけ不穏な存在だったはずの巻鏡子ですら4人にかかれば“説教中の目を盗んでこっそり食べ”という小学生レベルのネタ要員になっていて(あと「人間は本来10時には寝るようにできている」ってなことを言ってるけどドラマは「10時始まり」というネタがこの日はやきゅうのせいで「11時10分始まり」というネタ潰しというネタもあったw)、そういうとこほんと「ダメ人間」たちだし、別府くんの弟に「ダメでしょ」と言い切られて当然だし(ゴミ出しの話はここで活かされるのか・・・)、そしたらなんか『すずめちゃんが別府くんに恋をした瞬間』の話になって、『恋するすずめちゃん』の話になって、『まんまと「SAJ」の三段活用を実践するマキさんと別府くん』を挟み(あの状況で「ありがとう」を「サンキュー」と言い直すマキさん変態すぎるw)、『お腹を空かせた好きな子のためにたこやきを買う兄ちゃん』の話になって、恋する気持ちを隠すことははたして「嘘」なのか、ということはそれとして、4人がそれぞれ抱える『秘密』のトリを飾るのは『家森さんの気持ち』だったか・・・と、その切なさの詰め合わせのような恋心にぎゅーーーーーーーーーーーーーーーーっとなりつつも最初からこういう感じのドラマだったらきっと時間軸なんてことを考える人はいなかったんじゃないかなーなんてことを思ったりしてたら、最後の最後に爆弾落ちてきたぞオイ・・・・・・・・・。
冒頭の別府くんが見た「4人の身体が入れ替わっちゃうんです」という夢の話は「「へぇ〜」からは何も生まれませんよ「へぇ〜」を生まないでぇ」という家森さんのさすがの面倒くささを描きつつ某アニメの「入れ替わってる〜!?」を元にしたくすぐりか?程度にしか思ってなかったのに、「つまらない話」であったはずのそれがまさかこの衝撃すぎるラストに繋がってたとは毎度毎度ながら「マジかよやられた」感ハンパねえ。
ていうかこの期に及んで大倉孝二まで出してくるとはどんだけわたしのツボを抉りまくるのかと。
こういうことになると、幹生と結婚したマキさんが「家族になりたい」と願った理由、自分から逃げた夫の靴下をそのままにして待ち続けた理由、わたしが思ったそれから変質するというか、より強く重く深く刺さる。
そしてマキさんがほんとうは誰で、どんな人生を送ってきて、どんな事情があって、他人の名前・身分を借りたのか偽ったのか乗っ取ったのか、とにかく早乙女真紀という人間になりすましたのかはまだわかりませんが、そういうことならば人を殺してしまったという夫に「一緒に逃げよう」「こんな人間の人生なんていらない」と言い切れたこともただ幹生に対する愛情ゆえのこと、というわけではなかったんだなと、これまで見てると思っていたものが、見えてると思っていたことが、じわじわと黒いものに覆われていく気がする。それはまるでドレスアップしたマキさんが纏う黒衣のようで。
マキさんはいつから「早乙女真紀」と名乗っていたのだろうか。別府くんが学祭で出会い一目惚れしたマキさんはヴァイオリニストとして活動していたわけで、幹生と知り合ったキッカケもヴァイオリニストとしての仕事だし、別府くんと出会った時には早乙女真紀だったのではないかと思うのだけど、でもマキさんの旧姓話のときに別府くんが一瞬早乙女という名前に反応したよね?。あれは自分の記憶してる旧姓と違ったから、だったのだろうか。
でも時期なんかよりももっと重要なのは“浜松でコンビニ強盗をしたと自首した男”の件でなぜ“富山県警”が出てくるのかってことよ。コンビニ強盗するに至る動機として“結婚生活から逃げた”という背景があるわけだから、幹生の結婚生活、ひいては結婚相手について調べるということはあるかもしれない。そこで離婚したという元妻に話を聞く必要があると考えたとして、幹生はマキちゃんの居場所、軽井沢のあの別荘を教えるだろうし、話を聞きに来るのは静岡県警だよね。でも強盗は重罪だけど犯人は自首してるわけで、その元妻について調べる必要があるか?と思うわけで、しかも富山県警が関わる理由なんてないよね、コンビニ強盗に関しては。でも現実に富山県警の刑事がわざわざ弁護士とともに巻鏡子を訪ねてきた。その理由を考えるとしたら“コンビニ強盗犯の家族について確認したら生年月日や本籍のデータが富山県警に失踪届が出ている「早乙女真紀」という人物と一致した”とかだけど、繰り返すけどコンビニ強盗犯の別れた妻について調べる必要があるとは思えない。となると、孝二刑事が巻鏡子を訪ねてきたのはコンビニ強盗とは関係のない、別の理由・目的があってのことなのでしょうが、それがなんであれ刑事は巻幹生と結婚した旧姓早乙女真紀を名乗る人物は「早乙女真紀ではない」と断言してるんだよね。それはつまり断言できる理由があるということになるだろうわけで。
それがなんなのか、わたしには犯罪絡みのことしか思い浮かばないのだけど、でも「じゃあ誰なんですか?」と巻鏡子に聞かれた刑事の「誰なんでしょうねえ?」という言い方は犯罪者に対するそれには聞こえなかったわけで、でも演じてるのが大倉孝二だからこんな感じなのかもしれないし、でも大倉孝二をキャスティングしたわけだからそういうことだろうと思うわけで、次回を見ればわかるだろうけどでもなんかもう怖すぎるからいいいい聞きたくない知りたくない!てな気分。でも見たい。知りたくないけどすっごく知りたい。
考えても考えても答えは出ないもののマキさんは一体誰なのか問題については1週間考え続けるとして、すずめちゃんの、そして家森さんの片思いのほうはもうね、切なさに押しつぶされたよね。
すずめちゃんが別府くんに恋をした瞬間のみずみずしさよ。こんなん誰だって恋しちゃう、しちゃうだろうよー!。
ミッキーカーチスはバイト先の社長なのかなぁ?職場ではしっかりとした受け答えをしてるすずめちゃんなので、ここで気安い言葉遣いになるのは「お休み時間」だからであることに加えてこのひとが“白いひげのおじいさん”であるからだと思うのだけど(昔チェロを教えてくれた白いひげのおじいさんに似てるんじゃないかな)、『わたしの好きはその辺にゴロゴロしてるっていうか、ちょっとだけがんばるときにその人がいつもちょっといて、エプロン掛けてくれるの。そしたらちょっとがんばれる』と、白い綺麗なブラウスを着ているからと“自分が掛けてたエプロンを”(←これ超重要!!!!!)サラッと掛けてスッと結んでくれた別府くんを想いだしてそう話すすずめちゃんの気持ちがわかってしまうわけですよ。だってあの別府くんには誰だって恋してしまうもの!!。
でもすずめちゃんの切なさはここから加速する。すずめちゃんの好きなひとには好きなひとがいて、すずめちゃんはそのひとのことも好きで、だから好きなひとの想いが好きなひとに届けばいいと、すずめちゃんはそう願う。願いながら「夢」を見る。マキさんの代わりに自分が別府さんとコンサートに行く夢を。ああ、これもまた「入れ替わり」だ。
コンサートの開始時間に合わせ、今マキさんと一緒に別府さんが聞いてるかもしれないリストの曲を聴くすずめちゃん。聴きながら見る夢の中のすずめちゃんは楽しそうで嬉しそうで幸せそうで、夢のなかのすずめちゃんが可愛ければ可愛いほど切なさがこみあげる。
目を覚ましたすずめちゃんは別府さんへの想いに駆り立てられるようにしてコンサート会場へ走る。何を求めて、何を思ってすずめちゃんはコンサート会場までの道を駆けたのだろうか。
別府さんの姿を見たすずめちゃんの笑顔は、続いて出てきたマキさんに優しくコートをかけてあげる別府くんを見て消えてしまった。楽しげに語りながら会場をあとにする二人から逃げるようにその場を離れるすずめちゃん。
『片思いってひとりで見る夢でしょ。両想いは現実、片思いは非現実。そこには深い川がある』
好きなひとと好きなひとのデートを見ながら、すずめちゃんはその深い川で溺れそう・・・・・・なのかな。それをお膳立てしたのはすずめちゃん自身であることがとてつもなく切ない。
でもさらに切ないひとがいた。
「僕は好かれたいだけで人を好きにはなりません」と言う家森さんはどれだけSAJを繰り返してきたのだろうか。
「片思いはひとりで見る夢」だと自分にどれだけ言い聞かせてきたのだろうか。
エプロンのことも、すずめちゃんの顔についたアイス?を拭き取ってあげようとしたのも、別府くんにとってはただの優しさであり気遣いでしかないことを家森さんはわかってる。そしてただの優しさであり気遣いでしかないのにそれがすずめちゃんにとって「ちょっとがんばれる」ことであることも。
別府くんとマキさんを二人でコンサートに行かせるために職場の男から鉄板焼きに誘われたなんて“嘘”をついたすずめちゃんのために、1パックだけ、すずめちゃんのぶんだけたこやきを買って帰る家森さんは、それがたこ焼き屋のおじさんによって明らかになるという演出と相まってもう優しさと切なさの洪水だった。
“興味のない相手から告白された場合”と称して、こんな形でしか自分の気持ちを伝えられず、こんな形だからこそ伝わらないのに傷つく家森さんが切ないってかもう哀れでな・・・。
ちょっと告白してみてといいながら“興味ないひと風”のポーズ決める家森さんに「こういうの好きだなー」ってちょっと呆れ混じりで苦笑いしながら言うすずめちゃんって、このシーンが一番切なかったわぁ。
すずめちゃんに「マキさんを見てる別府くんを見るのが辛いんでしょ」と家森さんは言ったけど、家森さんは別府くんを見るすずめちゃんを見て辛くはないのだろうか。
家森さんはきっともうそういう時期はとうの昔に通りすぎてる。好かれることを諦めきってる家森さんは、もはや辛いと思うことすら忘れてしまっているんじゃないかな。
でもマキさんを見てる別府くんを見てるすずめちゃんを見ることは辛いんじゃないかな。自分を見てくれないことが辛いのではなく、すずめちゃんが辛い想いをしていることが辛いんじゃないかな。
と、慈愛に満ちた顔で寝ているすずめちゃんにそっと触れるだけの家森さんを見て思う。
全員が片思いという4人の関係性は 家森さん→すずめちゃん→別府くん→マキさん ということのようですが、これってカルテットの並び順だよね。
カルテット的には第一バイオリンのマキさんが「リーダー」ということになるのかなと思うのだけど(部長ではなくキャプテン的な立ち位置。部長は別府くんだから)、マキさんを別府くんが見て、そんな別府くんをすずめちゃんが見て、そしてその隣で家森さんはすずめちゃんを見るという、見ているという。最初からこの関係性を示唆していたのか。
家森さんのことは誰も見てくれないの?家森さんの気持ちには誰も気づいてくれないの??。
あと何話?2話?。このドラマがどこへ向かっているのか、いまだにわたしには全く見えてきませんが、今確実にひとつだけ言えることはやっぱ家森さんの割烹着は微妙すぎ(笑)。てかこの写真誰に撮ってもらったんだ家森さん!!(笑)。
ていうかあれ?モヤモヤしてたのどこいった???。