奥田 英朗『向田理髪店』

向田理髪店

向田理髪店

北海道の財政破たんした「苫沢町」で理髪店を営む「やっちゃん」を中心とする、町と人を描いた連作短編集(っぽい)作品です。
完全にゆうばりを想起させる町が舞台で“映画”という要素もあったりするんでそれを意図したところはあるのでしょうが、なんとなく町の状況をイメージしやすいという程度であんまり深い意味はないかな。少なくともわたしはそこに特別何かを感じることはなかったです。
住民全員が各家庭の家族構成、子供がどこの学校へ行きどこで働いているか(どんな仕事をしてるか)知ってるような町を舞台にした物語の中心となるやっちゃんが50代男性なので、その年代の話(視点)が中心となりますが、最初は中国人の嫁がやってきたとか、札幌から戻ってきた娘がスナックを開いたとか、そういう傍から見ればちっちゃな“刺激”によって町民たちがワーワーしてるだけの話なんですよね。町内スケールの。それはそれで面白いんだけど、後半になると町で映画のロケがあり、町出身者が犯罪を犯し指名手配され・・・と全国レベルの話になるんです。でも話の雰囲気は変わらない。町民たちが言ってることやってること、下世話だったりエゴまる出しだったりするのは町内レベルだろうが全国レベルだろうが同じ。そこが面白かった。
将来に不安を覚えたり町の未来を憂いたりするやっちゃんたち世代だけど、その息子たちは息子たちなりに考えていて、その息子たちもいずれやっちゃんたちみたいになるんだろうな。そこに希望を見いだせるほど私は前向きな人間ではないけど、後味は悪くないです。