奥田 英朗『我が家のヒミツ』

我が家のヒミツ

我が家のヒミツ

『どこにでもいる普通の家族の、ささやかで愛おしい物語6編。』と帯にあるように、家族と共に暮らす人々の物語ではありますが、「どこにでもいる普通の家族」・・・ではない(ものもある)し、「ささやか」・・・ではない(ものもある)と思うんだけどなぁ。だって離婚した産みの父親が売れっ子劇作家だった!なんてことはないし、謎の隣人夫婦が実は公安がマークする人物だった!なんてことはそうそうないでしょう?。
そこは小説ですから、ていうか奥田英朗さんですから、そういうスパイスがあったりするわけですが、それぞれ家族に対してとか生活環境に対してとか、それなりに悩みや不満があったりするんだけど、それこそ言ってしまえば「普通」なんですよね。誰にだってある感情。でもそこでそれぞれに用意されたスパイスが絶妙なんですよね。日常の中の非日常具合が。父親が劇作家だってな話は「アンナの十二月」という作品なのですが、アンナの家族よりもアンナの親友の家族の話がいいんですよ。16歳の女子高生たちなんで父親と会話なんてマトモにしてなかったところが友人の話をすることによって久々に長い時間向き合って話したということを語るんです。こういうちょっとした枝がイイんですよね。母親が急逝し実家に戻った息子の話「手紙に乗せて」も同じような経験をした小林くんの存在が効いてるし。こういう要素が「愛おしさ」を生み出すのだと思う。
ところで、小説家を主人公にした「妻と選挙」という最後の1編に『今日び売れる小説は展開が早くてわかりやすいものだ』と編集者が指摘するってな一文がサラッと挿入されているんですが、これ思わず深読みしたくなっちゃうなぁ。