中村 文則『あなたが消えた夜に』

あなたが消えた夜に

あなたが消えた夜に

“コートの男”と呼ばれる連続殺人犯を追う刑事の物語かと思いきや、あっという間に“コートの男”は消え、徐々に明らかになる真相は陳腐で矮小で、それぞれがちょっとずつ抱えた狂気が積み重なって「事件」になってしまっただけなのかと思ったところで見えていた(と思っていた)事件が変わり、どんどんとおかしな方向に狂っていき、半分狂った人間が『キッカケ』に出遭ってしまったことで全部狂っていく様が描かれ、でもその破滅願望、破壊願望、それらに理解というか共感してしまう私が居て、多分私はこれまでなんども『キッカケ』にぶつかっていて、そのたびに留まることができていて、でもそれがいつまで続くかわからない、いつか全部狂ってしまうかもしれないという想いは常にあって、それでもいいかなーと、そうなれたら楽なのかなーと、そんなふうに思ったりして、そんなことを繰り返して今も生きているのだけれど、そんな私にとって中村文則の小説は束の間の安心とか安定とか、そんなようなものを与えてくれる。
とか思いながら最後まで読み終えたところであとがきの最後に書かれた
『共に生きましょう』
この一言にちょっと泣いてしまった。