中村 航『100回泣くこと』

100回泣くこと

100回泣くこと

付き合いだして3年。歳の差なし。僕は彼女に求婚し、彼女は「うん」と答え「結婚しよう」と言った。いきなり本番ではなく、その前に結婚の練習が必要だと考えた僕らは、結婚したつもりで1年ぐらい暮らしてみることに決めた。コーヒーと牛乳が混ざってカフェオレになるように、僕らは馴染み交じり合う。そんなセンチメンタルでどこか危うい日々がずっとずっと続くと思ってた。


これ反則。帯からして苦手な恋愛小説だということは覚悟の上でした。そのつもりで読み始めました。それなのに書き出しが「犬が死にそうだ、と実家の母親から電話があった。」ですよ。いきなり主人公が拾ってきたワンコの闘病記なのですよ。それならそうと言ってくれないと・・・・・・。3ページ目で止めるまもなくボロっと涙を落としてしまいました。早っ!泣くの早っ!!恋愛小説を読むのにも勇気を必要とするのですが、動物の話はもっと勇気がいるんだよ。あと準備。心の準備が必要なの。そうならそうと言ってくれよーって。電車の中で本読んで泣く女なんて気持ち悪い以外のなにものでもありません。



↓以下内容に触れてます↓




ブック(ワンコの名前。主人公が図書館で拾ったから。こじゃれてんなー)と彼女は会ったことがあるわけでもなく、主人公と彼女との関係においてはブックの存在はそれほど大きいものではないのに、掴みにしちゃブックの話を延々とするなーと思ったわけですが、それはその後に待ち構えている彼女の運命に対する助走であり希望なんだ。そして、主人公が自分ができることへの努力を惜しまない、優しい人なんだということが伝わってくる。やたら「この日々がずっと続くと思っていた」的な記述があるので、続かないということは想像できますが、その理由が病気というのはキツイ。病気かーと思った瞬間、主人公と彼女がドラマ版「1リットルの涙」のキャストで浮かんでしまい、そしたらもうダメ。“こなぁぁぁぁぁゆきぃぃぃぃ”鳴りっぱなし。
まぁ、幸せの絶頂だと思ってたら彼女が病気で死んでしまい、どん底まで落ちたけど、僕は生きていくよと立ち直る・・・というよくある感動話なのですが、あからさまに湿っぽいわけでもなく、涙を押し売りされるわけでもなくて、4年間放置してたバイクをブックの為に直そうとした時に出会ったガソリンスタンドの人だったり、病床の彼女に話して聞かせた石山さん(主人公の会社の人)だったり、そういう一見余計に思えるようなエピソードが良くて、それがまたほんのり暖かくて涙ぐみそうになる。
彼女が闘病している間、当然ながらブックに触れられることはなく、あのーブックはどうなったんですか?と主人公に何度も問いかけたくて堪らなかったのですが、最後にちゃんとブックの後日譚もありました。ていうかそこヤバイ。目覚まし時計の側で寝るのが好きだったブックと彼女の腕時計が結びつくなんて、素敵すぎる。その直前、いくら好きだったとは言え河原なんて公共の場所にワンコのご遺体を埋めちゃいかーん!ゴハンのお皿も埋めちゃいかーん!!とか超リアルなことを思ったばかりだったので、余計にドカンときた。
ブックよかったなブック。