荻原 浩『明日の記憶』

明日の記憶

明日の記憶

中堅広告代理店の営業部長。最初は映画俳優や映画のタイトルが思い出せないなど「この頃物忘れが酷くてさ」程度に思っていた。だがそれは若年性アルツハイマーの初期症状だった。会議の予定を忘れてしまう。ともに働く仲間の名前を忘れてしまう。通いなれた道なのに、迷ってしまう・・・。
次第に自分が自分でなくなっていく。やがて愛する家族のことまで忘れてしまうのだろうか。


めちゃめちゃ怖かった。そして悲しかった。今もどこかでこの人のように怯え、苦しんでいる人がいると思うと、震えそうだった。自分や、自分の周りの人にも起こりうることだから。
ところどころに主人公の書く日記が挟みこまれているのですが、これがとても効果的だと思った。だんだんとひらがなが多くなっていき、さっき書いたことと同じことをまた繰り返し書くようになる。確実に病気が進行していることを感じてしまう。
もっと激しい物語にも出来るのだろうけど、主人公の人柄を反映しているのか、穏やかに淡々と物語は進む。でも穏やかさの影で頭の中ではひっそりと、そして着々と記憶がこぼれ落ちている。その穏やかさが余計に苦しい。
この夫婦の関係はこの先どうなってしまうのだろう。現実問題としてこういう人々を受け入れる施設はやっぱり少ないのだろうと思う。なにを財源としてるのかよく分からないで言うけれど、金の使い道間違ってんだろと。一億円献金とか間違ってるだろ(関係ないかもしれないけど)と。社会派っぽいことまで考えちゃった。


それにしても、このところの荻原浩はすごいと思う。2ヶ月間隔で立て続けに3冊刊行ですよ。それもタイプが全然違う3作品。少なくとも上昇気流には乗ったかな。この本なんて、他人事じゃないからか、結構おじさんあたりの話題になってるらしいし。ただどれも売る気あんのかよ!?って装丁なんだよな。本自体からパワーが伝わってこない気がする。結構中身はいいんだから、もうちょっと外見磨けばモテそうなのにねー、とかそんな感じ。