初野 晴『漆黒の王子』

漆黒の王子

漆黒の王子

上の世界では、ヤクザの組員達が次々と眠ったままで死に至るという連続殺人事件。組員が死ぬたびに<ガネーシャ>と名乗る人物からの脅迫メールが送りつけられる。下の世界には、中世オランダの職業名を持つ7人の浮浪者たちがいる。そしてある日、酷い怪我をした「わたし」は<王子>と呼ばれる少年に助けられ、下の世界=暗渠へと連れてこられた。「わたし」は何故こんな傷を負っているのか。そして大切に守らなければならない「ヒナ」の存在。やがて二つの世界の謎は交錯する。第22回横溝賞受賞後第一作。


とにかく雰囲気重視、というか雰囲気のみ!って感じの作品。本格読みの人ならあっさり分かっちゃう構造だし、殺害方法や犯人など謎とされているものに対するサプライズがあるわけではないうえに、強引というかこじつけた感があったりするのでそういう面では物足りないと思う。でも、雰囲気はいいのですよ。ちょっと荘厳な感じで、破滅の美学とかそんな感じ。きっとタイトルとか中世オランダのなんたらかんたらとか知ってれば面白い小道具としてちりばめられてるんだと思うけど、とりあえず興味なし。
匂いがしない作品だと思う。物語の中で人や動物(インコ)は大量に死ぬ。残酷な物語なんだけど、生臭い匂いは全くしない。ヤクザの権力争いに中国からやってきたプロの暗殺集団が絡んでも、下世話な匂いはない。これは横溝賞を受賞した作品にも共通する印象なんだけど、ひんやりでペトッとした感覚だと思った。シリコンみたいな触感。そういう物語を書く人なんだなと認識しました。
しかし感覚だけの感想だな・・・。