伊坂 幸太郎『グラスホッパー』

グラスホッパー

グラスホッパー

あぁぁぁぁ〜、これすごい好き。大好き。なんだかわかんないけど、どうしよう。なんか嬉しくてジタバタしたくなる。今現在、私的には今年最高作です。「自殺屋」の鯨、「ナイフ使い」の蝉という二人の殺し屋と、妻を「非、合法的」な会社を営む男の放蕩馬鹿息子に轢き殺され、復讐の為にその会社にもぐりこんだ鈴木という元教師でちょっと頑固な男の三人の視点で描かれています。とりあえず、完璧に悪。鈴木は唯一真っ正直でまともな人間なんだけど、復讐=自分の望みの為に、分かってて悪事に加担してる。そしてこの三人を結びつける人物が「押し屋」の槿(あさがお)。ストーリーはある交通事故をキッカケに「押し屋」を巡って殺し屋業界一騒動ってな話なんだけど、すごくビジュアル的。漫画的と言い換えてもいいかな。なんたって人殺し祭りですよ。バンバン死にます。淡々と死にます。結構すごい死にっぷりだと思う。登場人物の半分ぐらい殺し屋関係だから。殺し屋三人の名前がまんまその人物を表していて分りやすいし、一文字っていうのがすごくいいと思った。潔い感じ。視点である三人とも、それぞれ逃れられないものを抱えているし、はっきりいってなんの希望も未来もない。でもなぜだかそれほど苦しそうじゃない。だからこの本から受ける感じも苦しそうじゃない。と言って、すがすがしいとか爽やかとかそういうのとも違う。やっぱり潔い、かな。いいなぁと思う登場人物やエピソード、言葉がいっぱいで消化しきれない程。小声でしか話さず、昆虫のシールを集めている弟とサッカーがめちゃ上手い兄はすごく魅力的。鈴木の言葉ではないけれど、この二人の人生は一体どんなものなんだろうと想像してしまう。それから元精神科医で現ホームレスの田中。実はこの人かなりのキーパーソンだと思う。この人がホームレスとなってしまったのはどうしてなんだろう。わりと攻撃的な診察をするタイプっぽいからなぁ。そうやって脇の人たちのことまで想像したくなるぐらい、みんな素敵。一番のお気に入りキャラである蝉とその上司というか相棒的ポジションの岩西の関係もなんか好きだ。岩西が蝉に言った「負けんなよ」って言葉にいろんなものが集約されてるんだな。選挙の話もなんかいい。読んでる最中はこんだけ選挙選挙って言うぐらいだからなんかあるのかなーと思ったけど。それからしじみの話やタイトルにもなってるバッタの話。なんとなく覚えておきたい話だなぁと思う。そして「僕は、君のために結構頑張っているんじゃないかな」という言葉。鈴木の言葉なんだけど、この一言にちょっと震えた。こういう瞬間に伊坂幸太郎が好きだ、と感じる。特別な言葉じゃないんだけど、なんでかなー、結構っていう言葉かな。すごくいいセリフだなと思った。妻のキャラクター設定も指輪というアイテムの使い方も完璧だし、あー、思い出すとまた震えそう。きっと何度も読み返したくなる、そんな気がする。ああ、感じたことを上手く表現できなくてすごく悔しい。