帚木 蓬生『エンブリオ』

エンブリオ

エンブリオ

不妊治療に実績をあげる産婦人科医のアモーラルな野心、生殖医療の闇を抉る。タイトルのエンブリオとは、受精後8週までの胚(受精卵)のことで、それ以降は胎児と呼ぶそうです。海岸沿いの小さな町にホテル並の施設と高度な医療、すぐれた人材を有する病院がある。不妊治療に悩む人々に福音をもたらし、慕われる院長。その裏で彼は日本という生殖医療の無法地帯の片隅で、男性の妊娠、人工子宮、堕胎や人工流産で得た胎児からの臓器移植などの研究を進めていた。そんな話です。専門的な技術や実験、その結果といったことにページを割いているので半分ぐらいは、「へーなんかすごいなぁ」なんて圧倒された。フィクションではあるものの、全く実現できないものではないのだろうし、実際これと同じようことが日本のどこかで行われているんだろうと思う。怖いけど。ただそれだけだと専門的な読み物、になってしまうところを、複数の女性との絡みや部下の裏切り、アメリカからのスパイみたいな下世話な要素も混ぜこんであるので、物語としてもおもしろく読めると思う。含みのあるラストだし。女の端くれとして、不妊っていうのはつくづく重いテーマだと思う。それから堕胎も。子供なんて絶対いらないとか公言してるわけですが、小説の中でだとしても何千万円ものお金を投じても、苦しい思いをしても、それでも子供が欲しいという人の存在を思うと、少しだけ申し訳ない気分になったりもして・・・。子供は神様からの授かりものとかって言うけど、それでも諦められない人間ってやっぱり罪だよなーとか思う。ほんと実際悩んでる人には申し訳ないけど。この先、男女の産み分けとかいい遺伝子を選ぶとかそんな世の中になっていくのだろうけど、そういう領域に人の手をつっこむのって嫌悪感を感じます。とかなんとかいいながら、キアヌ・リーブスの子なら喜んで産みたいと思う私。矛盾してるやーん。