天童 荒太『ジェンダー・クライム』

人目のない土手で遺体が発見され、体内から「目には目を」というメッセージが見つかる。
という始まりで、被害者の息子はかつて集団レイプ事件を起こした加害者であり、容疑者と目されるのはレイプ被害者の兄で、捜査を行う二人の刑事を中心とするエンターテインメント小説です。

この「エンターテインメント小説」というのは巻末の「謝辞」のなかで天童さんがそう書かれているのですが、ジェンダー問題というテーマはとても明確なんだけど、でも(過去の天童作品と比較して)エンタメ性はとても高く、それだけこの作品に込めた想いをより多くの人に届けたい、届けようという天童さんの意思を受け取りました。

作中でも特に強調されて描かれていますが、結婚相手のことを『主人』『旦那』と呼ぶ習慣であり文化が今の日本がこれほどまでに女性や子供が被害を受ける犯罪やハラスメントを生む要因の一つになっていると巻末の「謝辞」のなかで書かれていて、冷や水を浴びせられた気がしています。
私は未婚なので「うちの主人」と言ったことはありませんが、友人の結婚相手のことを「おたくの旦那」と言うことはよくある。「旦那」という言葉の意味を理解しているつもりなのに、無意識にそう言ってしまっている。

『言葉は、人の暮らしや社会の在り方を、縛ったり、ある方向へ導いたりする力がある。ささやかでも、呼び方一つの影響はきっと小さくない』

という天童さんの言葉を肝に銘じます。