中山 七里『絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課』

Xで多くのフォロワーを集める<市民調査室>なるインフルエンサーがいて、当初は誠実な食レポや宿レポに質問や相談にも真摯にこたえてくれることで注目を集めていたが、やがてフェイクニュースを流すようになる。サイバー犯罪対策課に勤務する延藤は個人的にその動向を追っていたが、フェイクニュースの被害者からの届けを受け正式に捜査を行うことに。

という物語なんですが、フェイクニュースが発端の風評被害によって廃業の危機に直面した高級旅館の支配人夫婦が心中するという描写があるんですよね。
いまSNSへの投稿によって命を絶った人がいることが大問題となっているわけで、そこに至る流れが実感として想像できすぎて「作り話」として読めない。

作中に「昨今の炎上案件は道徳観に基づいたものが多くを占める。行為の正邪を理屈ではなく道徳観でジャッジしようとするから感情的になる。感情的になるから理屈を差し挟まれると逆上し、敵味方の二分法に陥る。道徳観だけで物事を推し量ろうとするから、反道徳の相手を懲らしめると正義感が満たされて酔い痴れることができる。当事者でもないのに炎上したアカウントに謝罪を要求する烏合の衆は、まずこういう手合いだ」という記述があり、普段私が思っていることが端的に言い表されていて「なるほど、道徳観か!」と思わず手を打ちましたが、そうやって分析できてもそういう烏合の衆に対してどうすることもできない、せめてそんな烏合の衆にならないようにしようと常に自分を戒めることしかできないことに絶望する。