『舞台・エヴァンゲリオン・ビヨンド』@THEATER MILANO-Za

受けとめられないどころかなにがなんだかわからないニュースを聞かされてから3日目。いまだ思考は停止状態ではありましたが、もはや観劇ではなく現実逃避を目的として何年かぶり新宿に足を運びました。向かった先はTHATER MILANO-Za。

新しくできた劇場なのでまずは劇場について書きますが、これまたクソです。
西武新宿駅に沿った道を歩いて歌舞伎町タワーに向かい、目の前にあったエスカレーターを昇って入館したらいきなりアジアの屋台村みたいな空間で、大勢の人がいて飲食してて(めちゃめちゃうるさくて)入った瞬間帰りたくなりました。
でも入ったときはまだマシだった。終演後、一応(感染予防ではなく混雑緩和を目的として)規制退場が行われてるんだけど、ただでさえめちゃめちゃ人がいるその2階のフロアに900人からの舞台客が降りるもんだからごった返し状態で、劇場内の動線はロビーにいる人がさほど多くなかったからかそう悪くはなかったけど(トイレには行ってないのでトイレ列事情はわからず)ビル内の動線が最悪すぎる。
それから椅子も硬くて座り心地はよくない。演劇以外でも使うつもりなのか1階席は可動式のようでパイプ椅子に毛が生えたみたいな椅子だし、たぶん音もそんなによくはないんじゃないかな(最前列の上手だったんで聞こえない、聞き取れないということはなかったけど、さりとて「良い」とは言えないかなと)。次の新感線がここなんだけど、この先ブリリアかミラノ座の二択になるなら地獄すぎる・・・。


で、エヴァンゲリオン・ビヨンドですけども、これから舞台の内容にガッツリ触れるのでまだ観ていない方や内容を知りたくない方はここで読むのを止めることをお勧めします。
あとあんまりたのしい感想ではないので、この作品を観て「面白かった!」という方はおそらく気分を害されるでしょうからこれまたここで画面を閉じるのがよいかと思う次第です。





ざっくりとしたあらすじは、

『地上に巨大なクレーターが出現し、その原因は隕石の落下と発表されるが、そこから「使徒」なる存在が出現。使徒は人間に攻撃を行う可能性が高く、対抗策として「エヴァンゲリオン」を開発中だと「メンシュ」という組織の人間が発表する。
エヴァンゲリオンの起動実験中にパイロットの少年が「真実」を知ってしまう。少年・叶トウマは同じくパイロットを務める少年少女とともに通う学校に姿を見せその「真実」について叫び暴れるが、その時学校が崩落し、トウマは行方不明に。
残りの三人、ヒナタとエリとナヲはトウマを心配しながらも使徒殲滅の任務に就く。片目を負傷しながらヒナタが勝利し、続いて戦闘中に我を失いながらもナヲも勝利するが、エリは戦おうとはせず、「こちらが攻撃しなければ使徒が人類を攻撃してくることはない」ことを証明する。
実は「使徒」とは人間が資源開発を目的として地球を掘り進めたために出現した云わば地球の意志のような存在で、4体の使徒はそれぞれ「火」「風」「水」「大地」のエネルギーを持つ者である。
そして使徒出現の原因である隕石の落下はメンシュの司令である叶サネユキがでっち上げた「嘘」であり、真実はエヴァンゲリオンに乗った渡守ソウシが起こした「人災」であった。
4体の使徒が同時に出現し、パイロットの三人が招集されるが、両親を奪われた災害がかつての恋人であるソウシの起こした人災であり、その背後には自分にとってのあしながおじさんだと思っていた叶司令がいて、エヴァンゲリオンを動かすための「駒」として人工生命体を生み出していたことを知った指揮官のイオリは戦うか否かは「あなたたち自身で判断してほしい」と告げる。
エヴァに乗ると決めたがどうすればいいのかわからない三人の前にもう1機のエヴァンゲリオンが現れる。パイロットは三人の担任である「渡守先生」であった。
14歳しか乗れないはずのエヴァンゲリオンに大人が乗ったらどうなるかわからないというイオリに対し「これは自分の役目だから」と一人で地球の奥深くへ落ちていったソウシの犠牲によって、使徒は消滅し?地球の怒りもおさまりました?。
そしてエヴァに取り込まれ機体(胎内)で守られていたトウマが戻ってきて、ナヲはトウマに「愛してる」と言いました。
叶は逮捕され裁判にかけられ、メンシュは解体し地球に優しい組織を作ります?』

とまあこんな感じ?です。
いきなり最後が曖昧になったことでモロモロ察していただければ。

全ての元凶であるソウシ(いや真の元凶は田中哲司が演じる「叶司令」なんだけど)が自分の命と引き換えに「三人のチルドレン」を守ることそれ自体はいいんだけど、エヴァンゲリオンに乗れちゃった時点でそれはもうエヴァンゲリオンじゃないでしょ。自分の命と引き換えにとかそういうもんじゃないんだからさ。
劇場にはそれこそNERVのTシャツ着てたりアスカのファンであることを誇示してたりカヲル君の痛バ持ったりとガチのエヴァヲタクが思った以上に来場してて、開幕前はあちらこちらで関連会話が交わされていたわけなんですが、幕間では「あー・・・うん・・・」的な空気になり、終幕後は無言でしたからね。怒るではなくただただ無言。

これがエヴァの名前を使っただけの全くの別ものだってんならまあそれはそれで解釈のしようがあるかもしれないけど、でも人物造形はほぼエヴァなんですよ。
叶司令は碇司令だし、その息子のトウマはシンジ。ヒナタはアスカでエリはマリ、そしてナヲはカヲル君。
指揮官イオリはもちろんミサトさんで開発担当のエツコはリツコさん。
主人公のソウシはイオリの元恋人で、エツコのことを「エッちゃん」と呼ぶし「元エヴァパイロット」という点を除けば加持さんです。農業やってたのもたぶん加持さんがモデルだからだろう。

誰が見ても「エヴァンゲリオンのキャラクター」が投影されていることが「判る」人物を使い「自然と共存する世界を造ろう」とか言われても・・・って話。
現在の環境破壊によって引き起こされる様々な問題の原因、諸悪の根源は叶サネユキという「大人」であり、エヴァに乗ることができる「子供」であるエリが自ら「使徒と戦わずにすむ方法」を見つけ、その思想はヒナタやナヲに伝わり、そして大人であるイオリの意識も変えていくとかさあ、なにもかも単純すぎるでしょ。

ていうか別ものだと思ってもこれが一番「ノー」だったんだけど、カヲル君を投影したナヲというキャラクターを「同性のトウマくんへの恋愛感情に悩む少年」にしたことよ。
一応綾波にあたる存在もいるんですよね。叶司令がエツコにやらせてる「エヴァンゲリオンの人工パイロット・マユ」として水槽のなかで「造られている」少女がそれで、実はナヲもマユと同じ「人によって造られた存在」なんだけど、その設定は“触れられるだけ”でただ「トウマくんあいしてる」だけなのよ。カヲル君をそこいらのLGBTといっしょにすんじゃねーよボケが。


ストーリーについてはまだまだまだまだ文句が出てくるけど、文句しかないんだけどきりがないからこのへんで終わりにするとして、「舞台作品」としては素晴らしいところもたくさんあったんです。

まずは舞台装置。劇場に入ると滑り台かと思うような(まじで45度ぐらいあるんじゃないかと思ったほどの)八百屋舞台が目に入り、いやいやさすがにこのままでは演らんだろと思ったら、開幕からしばらくはその状態で役者やダンサーが舞台に立ってるもんでビックリし、途中からは実は可動式であった八百屋盆を移動するどころか縦にしたり横にしたりして姿を変えあらゆる場面を作っていくまるでパズルのような演出はその移動を担うアンサンブルダンサーさんたちの働きを含め見事でした。
セットチェンジ時は舞台前方に幕を下ろし、ダンサーさんによる「ソロダンス」で繋ぐというスタイルでしたが、こういう演出はいつもだったら安易だなと思うところなんですが、獅子奮迅の働きに対するお疲れ様ですという気持ちを差し引いてもそれぞれの肉体表現はとても見応えがありました。

そんななか、最も「美しい身体表現」であったのは誰であろう窪田正孝でありました。
はっきり言って窪田くんが演じる「渡守ソウシ」という主役に魅力はなかったです。それでも舞台上の窪田正孝から目が離せなかった。ソウシがなにかんがえてんだかわからなくともその佇まいには目を惹かれるし、エヴァのキャラクターをなぞっただけの登場人物たちのなかで窪田くんのソウシだけは生々しさがあった。

とくによかったのは新しい担任として子供たちに「ちょっとした話」をするところ。
例によってアスカを模したヒナタは加持さんポジションの渡守先生のことを気に入るんだけど、エヴァのキャラクターがそうだからではなくこのときの渡守先生が素敵だから、という説得力がこのシーンにはあった。子供たちに語りかける声音の柔らかさには寝そうになったもん。

そしてこの舞台で最大の、ある意味唯一の「エヴァンゲリオンらしい見所」である窪田正孝のマグナダイバーは映像とセットでひたすらに美しかった。
エヴァに乗ってる」ことを表現するためにフライングを多用するんですよね。なのでエヴァパイロットたちはプラグスーツと言うにはちょっとモコモコしてるスーツを着用してるんだけど、窪田正孝のスーツ姿は子供たちのソレとはとても同じには見えない(実際同じではなさそうだけど)バッキバキの身体が映えまくるものでして、この姿を拝めただけでチケット代の元が取れたってなもんです。
そのうえよくわからんラストシーンでイオリとともにダンス?するんだけど、漆黒のイオリに対しソウシは純白のノースリワンピースなんですよ。ゴリッゴリに鍛え抜かれた腕が丸出し!スリットからチラ見えする脚も丸出し!!とお土産までいただけちゃうわけですよ。
この舞台は窪田正孝の肉体・存在でもって成立してるといっても過言ではあるまい。それぐらいこの窪田正孝は美しかった。
濃いグリーンのざっくりハイネックセーターを衣装にしようと思った人は天才です。

天才と言えば、エヴァンゲリオン人形浄瑠璃のようなスタイルで表現したのは秀逸。
ワイヤーで吊られフライングしながら動くパイロットの隣で三人の人間がつかい棒を操り同じ動きをする「エヴァンゲリオン」を作り出す。
フライングで「液体で満ちたエントリープラグの中」を表現しながら「人間の力」でエヴァンゲリオンを動かし表現する、それはまさしく「人造人間」と言えるわけで、このアプローチはほんとうに素晴らしいし、おそらく日本の演出家では思いつかないアイディアなんじゃないかな。ていうか文楽エヴァンゲリオン、ありかも。


ところでわたしの一番のお目当ては田中哲司さんでしたが、Twitterで作品名で検索しても田中哲司さんに関する感想がほぼなかったんですよ。名前も入れて検索すれば出てきたんだろうけど、作品名だけだとほぼなし。あれあれ?哲司出てないのかな??なーんて思ってたんだけど(この時点で察してはいました。ええいましたよ)、実際観たらなるほどこれ哲司の感想ないわけだわと超納得。