染井 為人『鎮魂』

世間に知られる悪名高い半グレ組織の中心メンバーが連続して殺害され、SNSを中心に大騒ぎとなる。対立組織の犯行や半グレに恨みを持つ者の犯行なのではないかと様々な憶測が広まるなか、それぞれ正業を持ち守るべき家族がいる半グレたちは疑心暗鬼になる。

という物語で、半グレたちを殺している人間の視点は初めから存在しているので、狩られる側になった半グレたちや連続殺人事件を捜査する警察にはわからない「動機」については(読者には)わかってるけど、その人物が『誰』なのかというところが巧妙に隠されていて(これが物語の仕掛けその1)、その正体が判明した瞬間はちょっと驚いた。なぜこの人物に「疑い」を持たなかったのだろうかと、完全に盲点だった。

そして、半グレたちを狩り続ける男の人生に関わる人物がいるのですが、この人物の立ち位置にも驚かされた(これが物語の仕掛けその2)。
この人物にもなんらかの「秘密」があることは描かれてるし、立場的にはおそらくそっち側なんだろうなという予想はできたものの、そのセンは全く思い浮かばなかったし、だからこの人物がこういう役割を果たす(そのための存在だ)とも予想できなかった。

と、なんども驚かされはしましたが、物語としてはやや曖昧な印象です。
帯に「被害者にも、加害者にも、大切な人がいる・・・」と書かれていて、それがテーマだと思うのですが(そのつもりで読みました)、実際「被害者」の視点としても「加害者」の視点としても「大切な人」がいることが描かれてるんだけど、かといって物語の感じとして中立というわけではなく、諸悪の根源である男については「大切なひと」の存在がないまま(この男についてはなにもわからないまま)で終わることもあって、ストーリーは理解できる(し、楽しめもした)ものの「何」の話だったのかはよくわからないという感じ。