宮西 真冬『彼女の背中を押したのは』


2017年にメフィスト賞を受賞してデビューされたとのことですが、受賞作を読んでいないのでたぶん初めましての作家さんです。

半年前に実家から離れ東京で結婚生活を始めた姉に妹がビルから落ちたという連絡が入り、問題を抱える夫を残し単身帰郷するところから始まります。自殺と決まったわけではないけれど自ら飛び降りたかもしれない妹に何があったのか、何が妹をそうさせたのか、目を覚まさない妹について調べることで、姉も自らと向き合うことになる物語です。

大雑把に言ってしまうと“人生を上手く生きられない、社会の中で居場所が見つからない女性(たち)の物語”なんですが、女性に限らず登場人物がみんな幸せではないので気が滅入る。私自身と重なる描写も結構あったりするので余計に。
それでもみんな生きているわけで、そんななかで妹の行動・選択がどんな意味を持つのか、という着地点を見据えて読み進めたんだけど、ものすごく前向きなラストでホッとした。

「誰かの視点」が何度か挿入されるのですが、妹のものであると思うほど私は素直な読者ではないのでそれが「仕掛け」であるとは解る(そのつもりで読んでいた)のですが、いざそれが誰の視点であったのかが明らかになった瞬間は「え?誰だって???」でした。
そこで唐突に登場する人物ではなくその前にちゃんと物語のなかに登場してはいるのですが、話の流れ的にサラっと読み流していたので驚いたし、女性たちの抱える不満、それまで描かれていた「女だから」味わう苦しみがこういう形でまた誰かを苦しめることになるという連鎖にはやっぱり絶望しそうになるけれど、そこを一気にひっくり返すことができるのが小説なんですよね。だから私は小説を読むことが好きだ。