月村 了衛『非弁護人』


検察上層部の思惑により冤罪で投獄された元検事で今は「非弁護人」と呼ばれる男が主人公で、人々があちこちで人知れず行方不明になっている事象からそれが “社会的弱者”を喰い物にする一連の事件であることを見抜き、検事時代に因縁のある弁護士とともに表と裏からその中心にいる「ヤクザ喰い」を法廷の場で裁くべく奔走する物語です。

主人公は政治絡みの不正献金事件を追及しすぎて社会的に“犯罪者”となってしまったことで、法廷活動ができなくなり、裏社会で裁判の助言等を行う「非弁護人」として生きることを余儀なくされているので、反社会的組織の力を使いまくる(交渉することで「借り」まくる)ところがアウトロー感ばりばりで月村さんらしい。
そんな男がヤクザに対する複雑な感情を抱えつつも元相棒であり自分を売った男と“共闘”するという因果もそう。
事件はやがて日本中が注目する大事件に発展するんだけど、その始まりは「突然学校に来なくなった友達を探してほしい」という少年の依頼だってところがベタで良い。

ただでさえコロナという終わりの見えない戦いのさなかにあるうえに、オリンピックという「負」を抱えてますます社会的弱者が増えていくのだろうと、そして今はまだかろうじて自力で立っていられるもののなにがどうなっていつ自分もそうなってしまうかわからないわけで、なんかもう、ほんと地獄だよな・・・と滅入りつつ読み終えました。
小説の中だけでも悪人をスカっとぶちのめし、希望のある終わり方でよかったよ。せめて小説ぐらいはそうあって欲しい。