私が長岡弘樹という作家を知った「傍聞き」という短編集で、タイトル作の主人公だったシングルマザーとして娘を育てながら強行犯係で刑事として働く羽角啓子をフューチャーした短編集です。今回は娘の菜月とのW主人公。
羽角啓子というキャラクターのアイデンティティと言えば「母」であり「刑事」であるわけですが、娘の菜月とW主人公にしたことで「母(娘)」の話は菜月の視点で語られ、啓子のほうは「刑事」にほぼ全振りしてる感じで、つまり強行犯係が捜査にあたるような「事件」絡みの物語ばかりなので「傍聞き」と比べるとこちらは随分とクールな印象です。
複数作品のなかの1話なら気にならないところが1冊まるっと羽角母娘の話となると、身近な人間が事件を起こしすぎ・関わりすぎという気は否めませんが、次があるとして次もそうだとさすがにちょっと・・・とはなりそうだけど、母または娘の“気づき”からスパッと真相にたどり着く流れは相変わらず切れ味抜群ですし、今作は母娘のバディものとして楽しめました。
「傍聞き」同様、物語の中で鍵となるものが真相解明の最後でババーン!と効果を発揮するのですが、今回は“視覚”だけでなく“聴覚”という引き出しを開けてきてて、いやはやさすがやー。