湊 かなえ『落日』

落日

落日

  • 作者:かなえ, 湊
  • 発売日: 2019/09/02
  • メディア: ハードカバー

脚本家として一向に芽が出ない千尋の元に、突然新進気鋭の映画監督である長谷部香から新作について話がしたいと連絡が来る。香は次の作品で「笹塚町一家殺害事件」を撮りたいと考えていて、笹塚町の出身者である千尋に話を聞くことが目的であった。そこで終わった話のつもりでいたが、帰省した折に従兄弟とともに被害者の友人の話を聞いた千尋は、香がなぜ15年も前の判決も出ている事件を撮りたいというのか、それを知りたいと考える。

という始まりで、千尋の視点が本筋で、合間に香の人生が「エピソード」として挟まれている構成です。
物語の中心にあるのは「一家殺害事件」という禍々しいものですが、視点である千尋にはそれとは別に自身が抱えるものがあり、現状があり、描かれているのはむしろそちらのほうなので、本筋とエピソードがなかなか結びつかないんですよね。
エピソードの中で描かれる少女と今現在の長谷部香が繋がらないというか、長谷部香がなにを知りたいと思っているのか、それが読者視点でも一向に見えてこないので、千尋というフィルターを通してそれを描く作品なのかと思いながら読み進めたのですが、読み終えてもそれについては結局見えないまんまで、でも千尋も香も救済されてて、これをオチに持ってくるかと、タイトルの意味はそれかと、納得はできちゃったんだよな。そんなに大きな風呂敷ではないけれど、とても美しく畳まれた、という感じ。