秋吉 理香子『ガラスの殺意』

ガラスの殺意

ガラスの殺意

高次脳機能障害をもつ女性が「人を殺した」と通報してきた。女性は二十年前に起きた通り魔殺人の被害者であり、女性が殺したのは仮出所した加害者であった。という話で、記憶障害に苦しむ容疑者と、それを取り調べる女性刑事の視点で描かれるのですが、女性刑事は認知症の母親がいるんですよね。だもんで、容疑者とその夫に自身と母親のことを重ねて見るわけですよ。これがこの作品の肝であり、介護が(裏)テーマなのだと私は解釈しますが、ここがなぁ・・・・・・私の好みではなさすぎた。
容疑者の女性がなぜ高次脳機能障害になったかというと、両親と共に出かけた銀座で通り魔に遭い、逃げたところを車に轢かれたからで、現在の夫は自分を轢いた車の運転手だというなかなかに凄い設定なんですよね。そして重度の記憶障害を患っていて、二十年前からの記憶がほぼなく、自分が殺人を犯したことも覚えていない、自分がいまどこにいてどんな状況にあるのかもわからない。そんな“容疑者”に対しどう事件の捜査をするのか、ここに絞って書けば面白いものになりそうなのに、女性刑事の話が邪魔でなぁ・・・。
結構な事件だろうに、実質捜査してるのが女性刑事とその相棒の二人だけで、報告を上げる相手が署長って時点で警察パートは適当すぎるわけで、だから事件捜査を描くつもりはないのでしょうが、なまじ“事件の真相”が記憶障害という設定をしっかり活かしたいい感じのエグさだもんで、なんでこのアプローチなんだよー!と言いたくなってしまう。最後は「難病ヒロインの恋愛映画」みたいな終わり方だし・・・。