恒川 光太郎『滅びの園』

滅びの園 (幽BOOKS)

滅びの園 (幽BOOKS)

職場に向かう電車に揺られるひとりの男が見知らぬ駅で降車したと思ったら異世界に迷い込んでいた。男は異世界に順応し、妻と出会い子供が生まれ平穏な暮らしを送っていたが、やがて自身が元の世界でどんな状況にあるのかを知らされる。一方、男が異世界に迷い込んだと同時に現れた<未知なるもの>と戦う女子中学生がいる。<未知なるもの>の影響で発生したと思われる地球上の生物を次々と己と同化させる奇妙な生物に対する高い耐性を持つ女子中学生は同級生の男子とともにその生物の対策チームで働くことに。その生物をコントロールできるという人間と会話を交わした女子中学生は、やがて対策チームの中心人物となる。その女子中学生に助けられた少年もまた高い耐性を持っていたが、大人になった元少年はついに憧れの突入者となり<未知なるもの>の中へと突入する。
特殊な世界観、特異な設定には(私の中で)定評がある恒川さんではありますが、今作はこれまでの恒川作品とは特殊・特異の方向性が違うというか、まるで三崎亜紀さんが描くような「非日常感」で驚きました。
発端はブラック企業で働くサラリーマンの何もかも放り投げてどこかへ行ってしまいたいと思う現実逃避なので、日常からの地続き感があるんです。まずここが違う。どこかもわからない異世界に放り込まれた男はそこで「日常」を過ごし、突然世界が変わってしまった地球ではそれでも「日常」が続いてる。どちらも明らかに「異常」であるはずなのに、それでもそれが「日常」になる。
物語の設定・描かれている出来事に現実味などまったくないのに、それでもそこにリアリティを感じてしまう。物語のなかで地球上の生物(生命)を次々と取り込み呑みこんでしまう謎の生物が例えば放射能を可視化したもののように思えてしまう。それが一人の男=人間の生み出したものであることも含め、作中の言葉を借りると物語の「核」の部分に現実を見てしまうのです。この感じはこれまでの恒川作品にはなかったもので、最後のページまで貪るように一気読みしてしまった。