劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season月@IHIステージアラウンド東京

ようやっと下弦を観ることができたのでとりあえずの前期感想です。

「月」の特色はWチーム制であることとこれまで沙霧として女性が演じていた役を霧丸にして男性が演じることの2点にあるわけですが、後者については正直特に効果があるとは言えないかなーと。性別を変えることによってそこに新しい物語が生まれることを期待してたけど、沙霧→捨にあった恋愛感情のようなものが男同士の友情というか、お互いを認めあっての絆的な?そんなものに置き換わっただけで話の筋としては変更がなく、言ってしまえば単なる性別の変更ってだけ。でも男性にしたことで兵庫とキャラ的にバッティングするというか、兵庫が霧丸に割を食われてしまうところがあって、さらに言うなら沙霧だったら「ヒロイン」として見られるところが霧丸だと捨と出会い感化され成長していく度合が強い(前面に出る)ので最終的に「主人公」になってしまった印象すらあって、沙霧から霧丸への変化はメリットよりもデメリットのほうが大きいように思う。特に上弦。上弦と比べれば下弦は兵庫と霧丸の間に年齢差があるんでまだバランス取れてはいるけど、上弦は完全に兵庫と霧丸が同化しちゃってる。須賀くんに兵庫はまだ無理というか(勝地のバカワンコ兵庫路線を踏襲してるんで兵庫単体で見れば悪くはないけど)、どちらと言えば明らかに霧丸のほうがニンだろうとしか思えない(霧丸役を平間くんと松岡くんのアミューズコンビにしたいというどこだかの思惑があってのキャスティングだろうと邪推しますが)(でも須賀くん兵庫と仁さんじん平の親子感はすごいあるww)。

兵庫と霧丸だけでなく、全体的のバランスとしては断然下弦のほうがいいです。人間関係を見せるにあたって無理がない。捨と天と蘭の関係性が見たまんま物語に違和感なくハマってるのが下弦だなと。マモ自身がもつ陽気で人当りのいい感じは地に潜り情報を集める捨にそのまんま当てはまるし、鈴木くんの天と廣瀬くんの蘭は華奢で中性的な感じが似通っていて、『信長様の小姓』感がバリバリある。ハハーン、こういう子が信長様の好みなのねと説得力がある。これまでに見たどの髑髏城よりも捨・天・蘭の昔馴染み感があって、ゆえに三人がそれぞれに抱く感情がスッと入ってくるんですよね。対して上弦は三人の感じに統一感がない。

で、月はいのうえさん→上弦→下弦の順で演出がされたってな話をどこかで見かけたような記憶があるんですが、だとしたらわたしが受けた印象の違いはこのシステムの結果によるものということになろうわけで、基本同じ演出をつけられているのに上弦はこれまでに見たことがない捨・天・蘭であるのに、下弦はお手本というとちょっとニュアンスが違っちゃうんだけど、イメージ通りの捨・天・蘭であるってのはなんだか不思議な感じがします。そしてそれが思った以上に面白い。

捨・天・蘭はそれぞれ全く印象が違うんですよ。ざっくりとした(一部乱暴なw)印象ですが
福士くんの上弦捨は抱えてるものはもちろん捨てるものなどなさそうな真っ直ぐ爽やかな兄ちゃんで、ニカっと笑われるとそれだけで許せちゃうというか、それこそかずきさんが脚本を書かれた仮面ライダーフォーゼで演じた如月弦太朗の面影を感じる瞬間すらあるほど。
マモの下弦捨は身体つきがしっかりしてて頼りがいがありそうなうえに色気もあって、飄々としていながらもでもどこか哀愁がある。
太一の上弦天はものすごい情緒不安定で、放っておけない感がすごすぎる。
麗羅(わたしは鈴木くんのことをこう呼んでしまいます)の下弦天は小賢しい策略家。
翔平の上弦蘭は都会のチンピラ(無界屋がクラブに見えるw)。
廣瀬くんの下弦蘭は太一蘭を踏襲し、引き継いでる。
ってな感じで、同じ台詞を言ってもそれぞれかなり違う、なんなら対極と言っていいぐらい印象が変わるのはほんと面白いです。
特に天と蘭の関係、下弦は人の男として自分のほうが殿に必要とされていると思っていたのに最後の瞬間殿が言葉を残したのが蘭丸に対してだけだったことが天の中で憎悪となり、上弦は殿と蘭丸の間には元から余人には入り込めない特別なものがあって、天はずっとそれを妬んでいたのだろうと、そんな感じに思えるんだよね。

その違いはどちらが正しくてどちらが間違ってるとかでなく純粋に見比べることが愉しいし、華があって個性のぶつかりあいがドキドキもハラハラもして面白いけどまとまりとしてはそうでもない上弦と舞台経験豊富なキャストが揃ってるだけあって個々の見せ方が巧く台詞聞こえもいい(特に捨!カッコいい声で聞こえる台詞の通りは歴代一!!!)まとまりのある下弦、どちらもそれぞれ良いところ魅力的なところがあって、両チーム合わせて『月』なんだなと、Wチームにした意図はこういうことにあるんだと、下弦を観てようやくそれを理解することができた。
でね、上弦の天魔王を演じる早乙女太一は過去に二度蘭兵衛を演じているわけで、『蘭兵衛のことを誰よりもよく知ってる天魔王』ということになると思うの。その太一天に対して翔平の蘭は太一が演じなかった蘭兵衛なんですよね。ここがわたしにはたまらなく魅力的に思える。
とまぁ結局太一のことばっかり見ちゃうんだけど。

今回冒頭で天が鎧を手にし天魔王になった瞬間というこれまでの髑髏城にはなかった新シーンが加わり、そしてその鎧を一枚一枚剥ぎ取られ、残ったのは小さくて貧相な男の身体、ただの哀れな人間だった、という月髑髏だけの演出・設定になっているのですが、あの蘭を演じた太一にこの天を演じさせるとか、かずきさんもいのうえさんも鬼だな・・・と思うと同時に、こういう天を任せられるようになったことに毎回胸が熱くなります(自分の顔を赤い化粧で汚すのはほどほどにしてほしいけど)。鳥髑髏で蘭の最期に泣かされまくったけど、月髑髏で鎧をはがされ裸(黒子のような格好なのは“見えない”という意味だと思う)にされ膝を抱えていじけたり斬られそうになって「やめてやめて」と手で頭を覆いながら逃げようとするその無様で惨めで哀れな姿にはまた違う涙がダーダー出てしまう。なんなら鳥より月のほうが泣いてますわたし。それだけでなく、上弦も下弦も所作であったり殺陣の形だったりそこかしこに太一の教えが見て取れて、それは紛れもない太一自身の成長でありカンパニー内での信頼の証であろうわけで、なにがいいたいかというと早乙女太一ほんと好き(着地点がみつからなかったw)。

これからの成長に期待することとしてひとつ挙げたいのが両捨之介の殺陣。捨にはそこまでアクション方面の充実を求めてはいないけど、それでもちょっとテンション下がるレベルなので、スピードや手数は今のままでいいとして見せ方をなんとかしてほしい。百人斬りとか刀を上げて下ろしてしてるだけなんだよね、今回の百人斬は贋鉄斎とともに霧丸も捨のアシストをするんだけど、霧丸の動きに捨がついていけてないように見えるし、そこに気持ちが入ってない。まだ段取りで精一杯なんだろうけど、流れのなかで「魅せる」べきポイントをいくつか決めてそこだけでも腰をグッと落としてビシっと動きをキメるだけでメリハリついてカッコよくなると思うんだけどな。
あ、殺陣で思い出した。今回の太一天魔王の(今のところの)最興奮ポイントは無界屋襲撃のときに青吉かなぁ?荒武者隊のひとりの足に刀をぶっ刺したあと柄を拳でドンドンって叩いて刀を足にめり込ませるやつです!ナチュラル鬼畜!それでいておでんが爆弾持ち出すと脱兎のごとく物陰に逃げ込む小っちゃさとのギャップ最高!!(あれ?下弦天はどうだったっけな・・・?)。

あとこれは『Wチーム』として同じ脚本・演出でやるというのがかずきさんといのうえさんの判断(+挑戦もかな?)なのでしょうからそういうものとして受け止めるしかないとは思うものの、狸穴と贋鉄斎が同じ演出であるがために没個性になってしまっているのがすこぶる残念。三役とも無難な役作りになってしまってる。でも太夫だって(霧丸に対する)上弦の聖子さんはカーチャンって感じなのに対し下弦の羽野さんはママって感じだし、それを言うなら同じ条件でありながらインディさんのいん平と仁さんのじん平は全然印象が違うわけで、となると演出が同じという理由だけじゃない・・・・・・のかなぁ。であればまだ2か月弱あることだし、若手の成長であり進化とともにベテランの方々が最終的にどんな狸穴であり贋鉄斎になるのか楽しみだし、渡京のハッチャケにも期待したいところ。