『ロンサム・ウェスト』@新国立劇場小劇場(THE PIT)

こういう舞台にこういう表現するのってどうかとは思うんですが(いやこういう舞台でなくともなんだけど)、そこをあえて言わせてください。


有起哉が演じるウェルシュってば凄まじいまでの受け神父・・・・・・っ!!!


アイルランド西部の片田舎町リーナンに住むコールマンとヴァレン兄弟。喪服に身を包んだ兄弟は今日父親を埋葬してきたところである。しかも父親は兄・コールマンが持っていた銃が暴発したことで死んだらしく、弟・ヴァレンもその場に居合わせたらしい。だというのに父親がいなくなった家に戻ってきた兄弟は弟の酒を兄が飲んだ飲まないとくだらないことで言い争う。それは日常茶飯事で、そんな兄弟の喧嘩を時に身体を張って時に涙を浮かべて止めようとするのがウェルシュ神父。

簡単に言っちゃうとそんな関係性なんだけど、この神父はアル中なんですよね。元々酒なんて飲まない男だったようなのですが、このリーナンという町はちょっと・・・荒んでるというか、殺伐としてるんですよね。そんな町(の人々)に対し自分は何も出来ないと、自分には何の力もないと絶望し酒に逃げたというダメ神父なのです。

でもコールマンとヴァレンには関わりたいの。こんなクソでクズな兄弟のことなんてほっとけばいいのに関わりたがる。喧嘩を仲裁しようとして足踏まれて半泣きになったり、あまりにもひどいことを言うもんだから「なんでそんなこと言うんだよお」と泣きながら訴えたりするんだけど「うるせーアル中のくせに」「いつもメソメソしやがって」「ウジウジ神父」と詰られ全く相手にしてもらえない。それでも何かあれば兄弟の家を訪れる。二人の幼馴染が湖で入水自殺したってのに、友人の死<<<<<<ストーブである弟に「なんで(一緒の学校に通った幼馴染が死んだってのに)ウルウルしないんだよ!?」と訴えるも「ウルウルしてるよ!」「ウルウルしてないよ!」「ウルウルしてるって!それはそうとしてこのストーブ良くない?新品だよ新品!」とか言われちゃう神父さんなの。ていうか「ウルウル」って・・・。
おまけに親が作った密造酒を売りさばいて金を稼いでるガーリーンという17歳の少女にまでそのヘタレっぷりをからかわれる始末。
しかもウェルシュって名前なのにずーーーーーーーーっと「ウォルシュ」って呼ばれてんだよねw。名前すらちゃんと覚えてもらえないとかタマランだろw(兄弟のみならず町の人たちにもちゃんと覚えてもらえないw)。

でもただ可哀想な扱いをされてるだけじゃない。この神父は酒の誘いは断らないし、断らないどころかちゃっかりおかわりしようとし弟に咎められると「汝、隣人に分け与えよ」と言うじゃないかといい声(笑)でねだりもする。その口で兄弟に秩序と道徳を、他人を思いやる気持ちを持てと説教する。この人自身にも問題アリアリなんだよね。まぁ問題がなきゃアル中なんぞにならないよなw。

で、そんなウェルシュ神父はいつもよりもややハードな兄弟喧嘩仲裁中に衝撃の事実を知ってしまうのです。
その事実とは、事故だと思っていたのに(そう聞いていたのに)兄弟の父親の死は実は兄が髪型をバカにされたという理由から明確な殺意を持って父親の頭をふっ飛ばし、それを見ていた弟は金目当て(家屋も財産も全て自分が貰うという条件)でそれを事故だと証言したというものであり、さらにそのことを町の人々も薄々気づいてたのに警察に言うことをしなかったというもの。つまり事故だと信じていたのは自分だけだったのだ。

そのことでギリギリのところで心の均衡を保ってたウェルシュ神父は壊れてしまった・・・のかな。仕事を終えた後、兄弟の幼馴染が入水自殺したその場所で酒を飲むウェルシュはやってきたガーリーンに兄弟への手紙を託し、そして同じように湖に入って死ぬのです。
神父に恋心を抱いていたガーリーンによって兄弟へ届けられた手紙には「兄弟がお互いを思いやり仲良く穏やかに暮らすことで(自殺者は地獄に行くというが)自分の魂は救われるかもしれない。自らの魂の救済を兄弟の愛に賭ける」と書かれてあった。
ってなにこの一方的な押し付け!超めんどくさい!!!w。

ていうかなにこのガーリーンが自分に向ける想いには全く気付かず、今この瞬間の私をちゃんと見て欲しいと願う17歳の少女に対して「きっと将来素敵な女性になるよ」なんてクッソいい声で言っちゃう鈍感男!!。しかもこのシーン、神父服の前全開にしてるからロングジャケットのようでそれがまたやさぐれ素敵でムカつくのなんのって!!。
もうほんとこのウジウジ神父タチ悪い・・・。

で、そんな神父からクッソめんどくさい手紙を貰った兄弟はというと、いくらウジウジ神父でも地獄は可哀想だよねと、俺らが仲良くすることで魂が救済されるなら頑張って仲良くしてやろうよと言うわけです。
神父が言うように(手紙に書かれていたように)一歩引いて考えることを覚えようと、相手を思いやりつつ謝るべきことは謝りそして仲良くなろうと兄弟なりに頑張るのです。
一番目につく暖炉の上に神父の手紙を貼って、その隣にガーリーンが神父に贈ろうとしていたネックレスをかけ、何かあるとそれを見ながら一歩引けと自分に言い聞かせる兄弟。
さらに兄弟は今までお互いに対して行ってきた数々の悪意を告白し謝罪しあう。

でも最初は悪ふざけ程度の悪事だったものがやがて笑えないものになっていく。「ごめんね」も言葉ではなく単なる記号になっていく。そしてそれは兄にとってこれまでしてきた悪事自慢という「ゲーム」でしかなく、「勝ち負け」でしかなく、その末にコールマンはヴァレンが可愛がっていた犬の耳を斬り殺したのはヴァレンが思っている男ではなく自分だと告げ、笑いながらごめーんねと、そして許してくれと言うのです。
それは弟にとって絶対に許せない真実。

本気の本気で「今俺、お前を殺したいよ」と兄に肉切り包丁を向ける弟。
猟銃を握った兄は弟が大事にしているストーブを撃ち抜く。

結果的にウジウジ神父が魂の救済=自分の命を賭けてまで託した想いが最悪の兄弟喧嘩の引き金となってしまうとかもうね・・・。
ああこれはもう神父の「いつかあの兄弟は本気で殺しあいをするかもしれない」という心配が当たってしまうんだろうなーと思ったものの、結局兄が弟に気合い勝ち(キチガイ勝ち)。
必死で買い集めた聖人フィギュアを粉々に砕かれ、その破片を集める弟を後目に兄は悠々とビールを飲みに出かけようとし、さらに「お前も来るか?」と弟を誘う。
行かねーよ行くわけねーだろバカ!!と言いつつも結局上着を取り「ぜってえビール奢ってやんねーかんな!!」と言いつつ兄を追いかける弟。
・・・・・・何なのこの兄弟・・・・・・。

神父のためとか、魂の救済とか、なんかもう結局そういうの全然この兄弟には関係ないよね。神父一人空回りだよね。
結局さ、神父は兄弟にとって「他人」でしかないんだよね。道徳とか倫理とか親愛とか、そういうものに当てはまらない何かが二人の間にはあって、それは結局「血」ってことになるんじゃないかなと。
自分の酒を箱に入れビニールテープで封をする弟に、テープ剥がして酒を飲み飲んだぶん水を足して嵩増しする兄とか、弟が掛けてる家財道具に対する保険金をちょろまかす兄とか、やってること言ってることは見るに堪えない聞くに堪えない醜さだけど、でもまるで小学生のガキなんですよ。ポテトチップの取り合いとかガキそのものだしねw。

とは言え彼らは立派な大人なわけで、本来ならば道徳も倫理も弁えてなきゃいけない大人なわけで、ていうかそんなにお互いを憎んでるなら別々に住めばいいだろうにそういう選択は彼らの中にないっぽい。
それは二人が兄弟だからなんじゃないかなーと。生きていくのにお互いを必要としてるからなんじゃないかなーと。
まぁ父親を殺しちゃったという事実があるわけだから血の繋がった兄弟の間で殺し合いが勃発するかもしれないという神父の心配は尤もではあるんだけど、でも多分、神父は心配しすぎ・・・だったんだと思う。
だってこの二人ってちょっと・・・いやかなりイキすぎてるけど「喧嘩するほど仲がいい」ってやつだろ。劇中でコールマンが言うんだけど「相手を気にかけてるからこそ喧嘩する」んだもん。
これが彼らの日常であり、これが彼らの人生なんだよ。父親が死んでも酒は飲むし酒のことで言い争う。知り合いが死んでもポテトチップで言い争う。それはそれ、これはこれ。だって彼らは生きてるんだもん。
だから言ってしまえば神父の心配は余計なお世話だったんだよ。
一方的に兄弟を心配し、一方的に想いを押し付け、勝手に死んだウジウジ神父でしかないんだよ。

でもちょっと思ったのは、神父も神父で兄弟を「利用」したのかなーと。神父はもう生きることが嫌になってて、でも信仰上(殺人を犯しても懺悔すれば救われる(天国に行ける)のに)自殺者は地獄に行かねばならないし、しかも自分はそれを説く神父であると。それでも死にたくなっちゃって、その理由、その言い訳として兄弟を使ったのかなーって、そんな考えが一瞬よぎったんだよな。だとしたら兄弟ホントいい迷惑なんだけど、でもこの兄弟だから別に重荷にはならないだろうとw。

なんてことを考えつつも、つっつんと瑛太さんのキチガイ兄弟に振り回されるウジウジ神父有起哉最高すぎた。
手紙の中で説教はしないと言いつつ(書きつつ)やっぱり説教臭くなっちゃう神父の『言葉』ではなく、そんな神父の『一生懸命さ』は兄弟に届いてた。神父の葬儀から戻ってきた兄弟の「アイツ結構イイ奴だったよな」「そうだな」ってやりとりは偽りじゃなかったと思う。この微妙な報われなさと報われた感が最高すぎた。


野蛮で粗暴で下品な正真正銘のクズ野郎である兄・つっつんと、一見ずる賢いように思えるけどなんか抜けててどこかピュアな弟・瑛太は言ってることやってることはクズで外道でしかないんだけど、もうほんっとにクズ兄弟なんだけど、でも可愛かったw。
でもこれ「可愛い」って思わせちゃっていいのかなー?と。瑛太弟はともかくつっつんの兄は愛嬌があってチャーミングで憎めないって、これでいいのかな?と思わなくはなかったです。

でもだからこそ包丁持ってる弟に向けてた銃をストーブ(人質)に向けたかと思ったら容赦なく躊躇なくぶっ放した瞬間コールマンに圧倒的なまでの「狂気」を感じ、だからこそヴァレンは本気で抱いた殺意を呑み込むしかなかったんだろうなーと“わかった”んで、そういう意図だったのかな。

でもでもどーーーーーーーしても納得できないというかわたしの目が理解することを拒否してたんだけど、つっつんと瑛太さんの兄弟は『童貞』なんですよねw。お互いがお互いを「童貞野郎」とけなしあってんだけど、どれぐらいの年齢設定なのかはっきりとは分かんないんだけど神父よりもちょっと年上(とパンフで有起哉が言っていた)ってことは少なくとも10代じゃないし、下手したら兄はアラサーかもしれないのよね。
・・・さすがに“この兄弟”が揃って童貞ってのは受け入れ難いです(笑)。