東 直己『探偵法間 ごますり事件後』

探偵法間(のりま) ごますり事件簿

探偵法間(のりま) ごますり事件簿

「法間(ノリマ)」を音読みにして「ホウカン」=「幇間」と呼ばれる探偵が過剰なお世辞で飄々と事件を解決していく短編集・・・でいいのかな?。その過剰なまでのお世辞オンパレードは言い方変えれば“褒め殺し”なわけで、だけどやたらめったら褒めるわけではなくて、ただ「美人」だとか「素敵だ」とか「趣味がいい」とか言うのではなく例えば時計だったらどこの国のどこのメーカーのなんという商品だというところをキッチリ指摘した上でそれをセレクトするあなたは素晴らしいと、それをつけるだけの価値があると、そういう褒め方をするわけです。 “自分だけのこだわり”とか、“この良さを自分がわかっていればそれでいい”とか言ってても、だけどやっぱりその高級さ=価値を判って貰いたいのが人なわけで、そこいらへんに東さんらしい「毒」がみっちりつまってるなーと思った。
あとこのホウカンはお世辞で生きてるだけあってものすごい知識量なんだけど、服とか靴とか家具とか食器とかあらゆる“逸品”の名前が登場するもののほとんど分からないので当然読んでいてもその価値は判らず「へぇ・・・」としか思えない。・・・・・んだけど、作中でサラっとホウカンが褒めるためのネタを「調べなきゃ」と思う場面が1度だけ描かれてるんですよね。つまりホウカンの知識は元から備わっているものではなく綿密な下調べをした上でのものなんだろなと。そしてもちろんそれを“武器”として使いこなせるホウカンの褒め殺しスキルが凄まじいのはそうとして、そんなホウカンのお世辞にコロっと参っちゃう人間たちの間抜けさを楽しむのがこのシリーズ、ってことなのかなぁと。
多分シリーズ化するつもりなのだと思うのですが、日常の謎的なネタの一方で全国レベルのニュースになるようなデカイ事件にも関わってたりしてて、こんな感じのバランスでいくのだとしたら舞台となる薪谷市って一体・・・・・・?と思ってしまいそう。