中村 文則『王国』

王国

王国

あとがきに「掏摸」の続編というよりも兄妹編を書きたいと思ったという記述があるのですが、確かに「兄妹」という表現がしっくりくる感じ。生来の悪人ではないものの、でも裏の世界でしか生きられない人間が、本物の悪、『絶対悪』によって追い詰められる底なし感はとてもよく似ていると思うのですが、でも「掏摸」は満たされない現実、もっと言っちゃえば人生から逃げ出したいような弱さを感じた一方でこの「王国」は満たされたいという激しい欲求、絶対に逃げないという強さを感じた。それは単純に男と女の違いなのかな。
そして私が女であるせいか、主人公を支配する正体不明の男がとても・・・・・・・・・魅力的に思えた。それは中村さんの描きたいものではないかもしれないけれど、この男の物語が、はっきり言ってしまうとこの男が最期に見る景色が読みたいと思った。