中村 文則『迷宮』

迷宮

迷宮

弁護士事務所で働く主人公が二十年近く前に起きた一家惨殺事件、通称「折鶴事件」の真相を追う・・・・・・こう書くとまるで謎解きミステリーのようですが、実際展開としてはその通りではあるし辿り着いた事件の真相も相当にエグかったりするんだけど、中村文則的主題・・・と言っていいのかなぁ?この物語の読みどころはそこにはない。
厭世的な人間たちがグズグズウジウジ自己弁護、自分に言い訳をしながら目の前にいる相手にそれを押し付けながら真っ当に生きることから逃げている、その様こそにあるのだと私は思う。
男たちは愚直なまでに自らの中に存在する欲望に抗えずにのたうちまわり、女たちはそれが自分に向けられていることを理解した上でそれに浸り利用し、そして諦める。誰もが自分のことしか考えず、とことんまでの自己愛しか存在していない。
そしてそれは私にとってはとても身近なものなのです。
私の中にも確実に生き苦しさが存在している。そしてそれはふとした瞬間凶暴なほどに狂暴なほどに表に出ようとする。
中村文則はいつもそのことを私に思いださせてくれる。
私にとって中村文則はやっぱり、どうしようもなく甘美であるのです。