佐藤 青南『ある少女にまつわる殺人の告白』

ある少女にまつわる殺人の告白

ある少女にまつわる殺人の告白

第9回このミス大賞優秀賞受賞作です。
少女が殺されたという“事件”がまずあって、雑誌記者と名乗る男が後追いで少女にまつわる関係者に取材と称して話を聞くという構図で、基本は取材対象者が語ったまんま口語体で描かれています。基本はと書いたのは、巻末の選評でも取り上げられている宮部さんの「理由」や恩田陸さんの「ユージニア」や「Q&A」のように完全なる語り口ではなく、会話調でありながらも語りの中に実際の会話(語り手と話の中での相手との会話)が普通に描かれているんで、まさかそれを話しの中で再現したわけじゃないだろうからそこまで”語り“としての描写は徹底されていないからです。
以下、背景色でネタバレしてます




作中で“一人の少女が殺された”という“事実”があることは明らかなのに、肝心の“事件”の描写(例えば新聞記事の内容を冒頭に置くことで客観的な事実としての説明をするとか)がないことがすごく気にかかってたんですが、それは結局仕掛けに直結することだったし、途中で成長した「少女」について語られた時点で展開は読めてしまったんで、構成としてはイマイチかなぁとは思いながらもタイトルの付け方は上手いなと思った。「ある少女が殺されるまでに辿った経緯」を“取材”するのではなく「ある少女が殺人を犯すまでの経緯」を“知る”物語であることを「まつわる」としたのは考えたなと。



ここまで。
題材も手法も云わば手垢のついたものでありながらも最後までしっかりと読めたし、これまたよくあるパターンではあるものの後味の悪さもしっかり感じられたんで、次回作に期待します。