三羽 省吾『公園で逢いましょう。』

公園で逢いましょう。

公園で逢いましょう。

やっぱりこの人上手いなぁ。小さな共同体を営む人々を多角的に描くのが抜群に上手いと思う。その共同体は家族だったり幼馴染だったりって言葉でひとくくりできてしまうものなのだけど、同じ共同体を営んでいても構成しているのはそれぞれ違う人間で、考え方も違えば(自分以外の人に対する)捉え方も違う。でも家族であり幼馴染であり続ける・・・。そういうものを描くのがほんとうに上手い人だなぁと改めて思いました。
この物語の共同体は「公園に集まるママ」。生活レベルや価値観や歳もバラバラでもし違うシチュエーションで出会ったならばきっと言葉を交わすことすらないかもしれない人々が「幼い子供のママ」という共通点だけで集う空間。別段目新しい題材ではないけれど、この物語はこの共同体を直接描くのではなく、公園に集うママたち1人1人の物語として描かれているのです。それも現在進行形の物語ではなくそれぞれ異なる時期の過去を回想する形で。当然語り部以外のママは登場しないんだけど、それぞれの物語そのものもバラエティに富んでて独立した短編として楽しめて、それを経て今がある、いろんな経験をし全く違う人生を歩んできた人たちがたまたま近所に住んでいたってだけで共同体を営んでいる不思議さと面白さと、それが生活なんだ・・・みたいなものにも繋がってるのです。一冊の本としてちゃんと収まってるの。なかなか上手く言えないんだけど、人の数だけ人生があり、人の数だけ想いがある。完全に分かり合えることなんてないのだけど、それでも少しずつ我慢して少しずつ諦めて、少しずつ努力して少しずつ思いやって、そうやって人は人と関わって生きていくんだな、生きていかなくちゃならないんだなって、当たり前のことなんだけど、その当たり前をスッと再確認させてくれるような物語でした。一番過去を知りたかったママの話がなかったのは残念でしたが、最後の1篇の着地が物語としても、そして一冊の本としてもとても気持ちよくて、ちょっと泣きそうになりました。いい話だったなぁ。
上手い上手い言ってますが、一番上手いなと思ったところは公園に集うママそれぞれの物語が何篇か続いたところで別の視点、共同体に所属していない人物の物語を挟むところでした。しかもその物語が異なる共同体同士を結びつけるキッカケになるかもしれないというちょっとした期待感を伴ってるとこが上手いのよ!。そして相変わらず会話のテンポと言葉遣いが(私にとっての)ストライクすぎて嬉しくなります。 やっぱりこの人大好きだわ。