綾崎 隼『死にたがりの君に贈る物語』


大きな賞を満場一致で受賞しデビューした小説家「ミマサカリオリ」。熱狂的なファンを獲得し、作品は映像化やアニメ化もされ続編が待望されるなか突如SNSで家族から訃報が知らされる。直後に高校生が後追い自殺を図ってしまい・・・。
という始まりで、ミマサカリオリのファンサイトを通じて集まった7人の男女が作品と同じような状況で作品と同じように共同生活を送り、自分たちの手で「物語の結末」を見つけようとする物語です。

なんとなく「十二人の死にたい子どもたち」のような作品なのではないかと予想していたのですが、方向性としては間違ってはいないものの思っていたものとは違った・・・かな。
電気もガスも、水道すら出ない山奥の廃校で共同生活を送る企画の「真の目的」が明らかになったところで7人が「集められた」理由も説明されるのですが、大事なのは「救おうとしている二人」だけであとは言ってしまえば人数集めでしかないのでそこに物語は必要ないのかもしれませんがそれこそ十二人の~と比較すればこれは「たった七人」であるわけで、もうちょっとそれぞれの事情や心情を描いてもよかったのではないかとは思う。作品の「肝」である『誰がミマサカリオリなのか?』という謎のために個々人をあまり深掘りすることは出来ないにしても、もうちょっと踏み込んでほしかったなと。

自衛のために相手を傷つけてしまう「ミマサカリオリ」のどうしようもない感情、自分自身への嫌悪はすこしわかる。私にもそういうところがあるから。
そして、本(小説、物語)によって気持ちが救われた経験も作家の死によってもう作品を読めなくなってしまった絶望もどちらも覚えがあるので、前向きな結末にホッとしました。