本多 孝好『Good old boys』

Good old boys

Good old boys

年に一勝もできない弱小サッカーチームを舞台に、8人の子供と父親、そして監督と息子それぞれの物語が描かれています。
子供たちが作る共同体があって、その共通点でもって関わり合いを持つ親たちの話ってのはわりとよくある設定だと思うのですが、この作品の特徴は「親同士」の話ではなくあくまでも「父と子」の物語であるところにあります。そしてポイントは「母親」ではなく「父親」ってところ。母親の物語だとどうしても他者、つまり“他の母親”ひいては“他の家族”との比較というか、そういう目線が入ってくるんですよね。
この物語の中で一番おもしろいなと思ったのって、最後の章である『ソウタ』の父親は大きな会計事務所を経営してるんだけど、そんなソウタパパに対し最初の章である『ユキナリ』の父親は“気はいいし機転も利くいい人で、その人がいれば集団の雰囲気は良くなる。でもたぶん仕事はできない。同じ課に一人ならいいけど二人いたら迷惑なタイプ”という印象を抱いているってなところだったのですが、読んだ感じではソウタパパはユキパパが思ってるようなタイプではないんだけど、ユキパパにとってはソウタパパは“そんな感じ”なんですよね。そしてそれはこの二人に限らず総じてそんな感じなんです。
誰がどんな仕事をしてるか知らない(知ろうとしない)し、子供たちのことも恐らくサッカーの上手下手は知ってても例えばどれぐらい勉強が出来るかとかそういうことも知らない。知らなくても(グラウンドで)付き合っていくことができる。でも母親だったらそうはいかないだろう。その情報を表に出すかどうかは別として、旦那が何をしているのか、子供の総合評価がどんなもんなのか、その情報を母親たちは把握してる。その上でそれぞれとの“付き合い方”を見つける。母親目線の物語だったらこうも・・・いい意味で「のほほん」とした雰囲気の作品にはならなかっただろう。
で、その「のほほん」さを作ってるのが監督の存在。プラス監督が飼ってる柴犬。
8組の親子=家族の物語が他親子の物語に影響を及ぼすことはほとんどないので物語としては各章が独立してると言っていいと思うのですが、要所要所で監督と柴犬が顔を出すんですよね。そこでなにがしかのヒントだったりアドバイスだったりといったわかりやすい“何か”があったりするわけじゃないんだけど、普段は日曜日のグラウンドでしか顔を合わせない監督と父親がそうではないシチュエーションで会話を交わすことで物語にほんのちょっとのアクセントであり癒しが生まれる。本多さんのこういうところほんと好き(去年から柴犬と暮らし始めた私なので柴犬が出てくるだけで評価をあげてしまうところがかなりあったりしますが(笑))。
そして「牧原スワンズ」が勝つことよりも楽しむことを目的として活動してる(そういうチームカラーである)理由。監督の想いがそれぞれの家族の物語を一つにするのです。
もうね、最後の章でスワンズが起こした奇跡に泣くから。子供たちが自ら考え努力した結果だから“奇跡”というのは間違ってるかもしれないけど、親目線だから奇跡でいいよね。それぞれの家族の問題が解決したわけじゃないけど、監督の想いがこういう形で報われたことが嬉しい。