桐野 夏生『路上のX』

路上のX

路上のX

飲食店を営んでいた両親の夜逃げにより叔父夫婦の家庭に預けられた高校1年の真由。ろくでもない母親を持ち義父から性的虐待を受け続けた17歳のリオナとその幼馴染のミト。渋谷で出会った三人はそれぞれ傷と抱えながら自分たちだけで生きていくための居場所を求める・・・ってな感じの作品で、帯に「ネグレクト、虐待、DV、レイプ、JKビジネス」とあるように最悪な現実と闘うしかない少女たちの物語です。
これまた帯に「女子高生たちの肉声を物語に結実させた」とあるので、実体験(取材内容)がベースにあるのだと想像しますが、そのせいなのかいつもの桐野作品とはずいぶんと感じが違うという印象でした。こう言ってはなんですが手垢のつきまくったテーマをあえて桐野夏生が描くわけですから、そこには桐野さんならではの「何か」があるだろうと期待したし、桐野作品としての「新しさ」は確かにあるように感じましたが、でも数多あるこの題材を描いた作品群としては“この手の話”の枠内に収まってしまうかな。
少女たちが立ち向かわねばならない“最悪な現実”はそれぞれで、外側からみれば「可哀想な少女たち」であっても内側は“不幸レベル”の違いからお互いに対する悪感情が噴出したりと結構な殺伐っぷりで、その不幸レベルのディテール含めここいらへんは実体験と桐野さんの筆力によるものであろうリアリティがありました。
そして真由が酷い現実に放り込まれた理由、夜逃げと聞かされていた両親のほんとうの理由が酷いのなんのって。これが『現実』なのかな・・・と思いつつも笑ったわ。